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最高裁平成23年12月1日判決の評価・今後への影響

判決の概要

最高裁は,プロミス,CFJについて平成23年12月1日に悪意を認める判決を出しました。

ただし,問題となった事案は,プロミスは平成14年10月よりも前に過払状態となる取引,CFJについては平成16年10月より前に過払い状態となる取引です。

概要は以下の通りです。

  1. プロミスは平成14年10月以降,CFJは平成16年10月以降は各個別貸付の17条書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をするようになった(原審事実認定を前提としており,最高裁が独自に事実認定したものではありません)。
  2. リボルビング方式の貸付けについて,貸金業者が17条書面として交付する書面に確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずる記載をしない場合は,17条書面には上記記載を要するとした最高裁判所の判決(H17.12.15判決)以前であっても,当該貸金業者につき民法704条の「悪意の受益者」との推定を覆す特段の事情があるとはいえない。よって,プロミスは平成14年9月まで,CFJは平成16年9月まで悪意の受益者である(悪意の推定を覆す特段の事情はない)。
  3. CFJ,プロミスが確定的な返済期間,返済金額の記載に準ずる記載をするようになった上記年月以降については,本件各取引はその時より前から過払の状態となり貸金債務は存在 していなかったので同月以降は利息が発生する余地はない。よって,同月以降についても悪意の受益者である。

今後の過払い金返還請求に有利な点

本判決は,以下の取引については,今後の過払い金返還請求に決定的な判例になると思われます。

  1. 17条書面に確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載をしていない取引
  2. プロミスについては平成14年10月時点で過払い状態であった取引
  3. CFJについては平成16年10月時点で過払い状態であった取引

これらの取引では,貸金業者は悪意の受益者の推定を覆す特段の事情の立証は極めて難しくなり,事実上,悪意を争う余地がなくなると考えられます。

今後の過払い金返還請求に不利な点

本判決により,貸金業者は以下の主張することが可能になると思われます。

  1. 本判決は,プロミスについては平成14年10月以降,CFJについては平成16年10月以降は,個別貸付時の17条書面に確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載があるという原審の事実認定を前提としています。プロミス,CFJは本判決により,上記各月以降は要件に欠けるとの認識はないことが認められたとの前提で争ってくると思われます。具体的には,上記各時期以降に始まった取引については(少なくとも最高裁平成18年1月13日判決までは)悪意ではないと主張して来ることが予想されます。
  2. 上記時期の時点で過払い状態ではない取引(法定利息残貸付金がある取引)については,上記時期以降は悪意ではない,あるいは,上記時期以降は,少なくとも上記時点の法定利息残貸付金に対する範囲ではみなし弁済が成立するとの認識を有していたと主張して来ることが予想されます。ただし,この点については,最高裁平成23年12月15日判決(アコム)を反駁の根拠とする余地があります。
  3. 他の業者も確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載を始めた時期を特定して同様の主張をしてくることが予想されます。
  4. 法定書面の交付の個別立証は不要であり,業務体制の立証で足りると主張して来ることが予想されます。

本判決の評価

本判決は,請求者側の勝訴判決ですが,冷静に検討しないと評価を間違います。

まず,最高裁平成17年12月15日判決(平成17年判決)以前であっても,確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載がなければ,悪意の推定を覆す特段の事情はないとした点では,そのような記載があることを立証できない貸金業者を相手とする限りは,本判決は決定的な判決となると思います。また,プロミスについては平成14年10月,CFJについては平成16年10月より前から過払い状態の取引について悪意を争えない結果,これまでのように特段の事情を立証するとして訴訟の引き延ばしはできなくなります(裁判所が相手にしない)。

しかし,プロミスについて平成14年10月よりも前から過払い状態になる取引なら,その始まりは平成一桁台以前であることが多いと思われます。悪意の争点は,取引の始まりが古ければ貸金業者は不利になり,新しいほど請求者側に不利になるので,経験からすれば,平成14年10月より前に過払い状態になるほどの古い時期からの取引であれば,そもそも悪意が否定されるリスクの少ない取引であったと言えます。そのような古い取引についてプロミスの悪意が否定される例は全国的にみてもかなり少なかったと思われます。そうすると請求者側にとっては,本判決の価値は過払金利息も返還を受けられるようになったという点ではなく,これまでの過払金利息は認められてきたが,今後は,貸金業者が特段の事情立証を理由に訴訟を引き延ばすことができなくなるという点にあると思われます(ただし,本判決と同様の事案に限ります)。

他方,貸金業者にとっても本判決は有益な部分を含みます。プロミスについては平成14年10月以降は,確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載があることが前提事実とされているので,この点については,最高裁の後ろ盾を得たとして,同月以降に始まった取引については悪意を激しく争ってくると思われます。また,平成14年10月時点で法定利息計算残貸付金がある場合についても,同月以降の悪意を強く争ってくると思われます(少なくとも法定利息残貸付金の範囲ではみなし弁済が成立すると認識していたなど)。CFJについても同様です。

すると,本判決は,もともと悪意が否定されるリスクが少ない平成14年10月より前に過払い状態になるほど古い取引については得られたものが多いとは言えず,かえって新しい取引についてやっかいな反論をする根拠を貸金業者に与えてしまった部分があります(ただし,プロミス,CFJの悪意を全面的に否定した原審の判断の方が酷かったのですが)。

そのため,請求者側にとってすべて有利という判決とは言えません。

ただし,最高裁平成18年1月13日判決以降は悪意であるという点を崩すことは難しいことからすると,プロミスについて平成14年10月以降に始まり,平成18年1月13日までに過払い状態となる取引は限られていると思われます(CFJについては尚更)。確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載を始めた時期も原審の事実認定を前提としただけで最高裁が認定をしたものではありません。実際,プロミスの平成14年10月以降の利用明細書の記載をみると,確定的な返済期間・返済金額の記載に準ずる記載とは思えません。

実際,プロミスは,平成14年10月以降,返済期間について「返済予定回数:1~○回」(○には最大回数が入る)と記載していたが,本最高裁判決後である平成24年1月24日に東京地裁は,平成16年7月に取引が開始し同年10月に過払い状態となる取引について,「返済予定回数:1~54回」という記載のような「大きな幅のある返済回数を記載することでは」確定的な記載に準ずる記載とは認められないとし,プロミスの悪意を認定している。

CFJについては,利用明細書の書式上は返済期間などを記載する欄があるだけで実際には空欄にされていたり「*」で置き換えられていたりする場合があります(例えば,利用明細書の返済期間の欄には「*****-******」と記載されている等)。サンプルでの立証を許さないことが重要です。

以上,本判決と同様の事案については過払金利息の請求は非常に容易になり,訴訟活動も短期に決着がつきますが,本判決の事案と異なる取引については,貸金業者は,これまで以上の激しく悪意を争ってくることも予想されます。このとき,本判決は,請求者側の請求のよりどころではなく,貸金業者の反論のよりどころとなります。そもそも悪意の争点ではほとんど貸金業者が負けていたことからすれば,本判決は,請求者側よりも,貸金業者側が利用できる部分が多いと思われ,より十分な訴訟活動が必要になると思います。

本判決の事案と異なる取引については,訴訟前の提案額は本判決を前提により低額になることが予想され,訴訟回収との差がより大きくなることも予想されます。