問題点
A社との取引をB社との取引に切り替えた場合やA社からB社へ債権譲渡された場合,B社に対してA社との取引中に発生した過払い金の返還も請求できるか,A社B社の取引すべてを1つの取引として一連計算した金額をB社に請求できるかという問題があります。B社がA社の過払い金返還債務を承継するかという問題です。
A社との取引をB社との取引に切り替えた場合やA社からB社へ債権譲渡された場合,B社に対してA社との取引中に発生した過払い金の返還も請求できるか,A社B社の取引すべてを1つの取引として一連計算した金額をB社に請求できるかという問題があります。B社がA社の過払い金返還債務を承継するかという問題です。
形式的には,おまとめローンと同様に,B社から借り入れてA社の債務を返済したとことになるため,原則として,B社に対してA社との取引中に発生した過払い金の返還を請求することはできません。A社に対する過払い金返還請求権を有し,他方で,B社に対して債務を負うことになります。切替時にすでにA社の取引が過払状態だった場合には,実際には債務がなかったのに別途B社から借り入れてしまったため不必要にB社に債務を負担したことになります。おまとめローン会社が申込時に,まとめる取引に過払い金が発生していないか専門家に相談するよう注意喚起しているのはこのためです。
しかし,プロミス・クオークローンのように親子会社関係にあるグループ内部での企業再編計画の一環として勧められて契約を切り替えた場合,不必要にB社(プロミス)に債務を負担させられたことになり,また,A社(クオークローン)が廃業して支払能力がない場合には同社に対する過払い金返還請求権は事実上ないに等しくなります。結果,切り替えなければ単にA社に過払い金返還請求権を有しているだけの立場(仮に回収できなくても支払いもしなくてよい立場)だったのに,A社に対する過払い金返還請求権は絵に描いた餅となり,B社に対する債務だけが残り不公平な結果となります。
そこで,B社に対して,A社の過払い金過払い金返還債務を承継したとして,返還請求していく必要性が生じます。
下記は当事務所で扱った事案で第1審はプロミスの責任を否定し,控訴審は第1審を取消しプロミスの責任を肯定しました。プロミスの責任が肯定されるか否かで,過払い金の額に大きな差が出るだけでなく,債務が残るか過払い金の返還を受けられるか極端に結論が別れる場合があることが分かります。
第1審 | 控訴審(東京高裁) | |
判断(原告A) | 過払い金0円(残債務587,298円) | 過払い金2,006,036円と利息 |
判断(原告B) | 過払い金1,210,382円と利息 | 過払い金3,139,524円と利息 |
第1審 | 控訴審(東京高裁) | |
判断 | 過払い金626,347円と利息 | 過払い金1,257,628円と利息 |
切替事案で債務の承継を主張する主な法律構成として以下の構成が挙げられます。
1.はB社がA社との間で,B社がA社とともに過払い金返還債務を負う合意をしたという主張です。併存的債務引き受けは,AB社間の合意なので直ちにB社は利用者に債務を負いませんが,利用者がその利益を受ける意思表示(受益の意思表示)をするとB社は利用者に直接債務を負うことになり,後にAB社間で合意を解除しても債務を免れなくなります。AB社間の併存的債務引受の合意の存在と利用者の受益の意思表示の存在が必要になります。
なお,プロミスの場合,クオークローンと連帯責任を負う旨の合意をしていますが,平成20年10月にこの合意を解除しています。平成20年10月以降に過払い金返還請求に着手した場合,プロミスは,仮に合意が併存的債務引受でも,受益の意思表示前に合意を解除しているので責任を負わないと主張してきます。そのため,解除前に受益の意思表示をしたこと,具体的には切替時の行為が受益の意思表示に当たると主張立証する必要があります。
2.は,B社がA社の債務を承継しないことを前提に,承継を否定することが信義則(民法1条)に反して許されないというものです。債務を承継しないことを前提とする主張なので,1.の主張より一歩後退した主張となります。信義則違反を基礎づける切替時のB社の行為を具体的に立証立証する必要があります。
長く争われてきたプロミス・クオークローンの切替事案について,最高裁判所判決H23.9.30は,プロミス・クオークローン(現クラヴィス)の切替事案について,「上告人(顧客)と被上告人(プロミス)とは,本件切替契約の締結に当たり,被上告人(プロミス)が,上告人(顧客)との関係において,本件取引1に係る債権を承継するにとどまらず,債務についても全て引き受ける旨を合意したと解するのが相当であり,この債務には,過払い金等返還債務も含まれていると解される。したがって,上告人(顧客)が上 記合意をしたことにより,論旨が指摘するような第三者のためにする契約の性質を 有する本件債務引受条項について受益の意思表示もされていると解することができ る」として,併存的債務引受構成により,プロミスがクオークローンの過払い金返還請求を承継することを認めました。 この最高裁判決により,プロミス・クオークローンの切替事案については決着がつきました。
あくまで事実認定の問題であるため,最高裁判例を引用するだけでは足りません。最高裁判例と同じ結論を導くためには,同様の経過で切替契約を行ったとの主張立証が不可欠です。少なくとも業務提携契約書・残高確認書兼振込代行申込書(最低でもサンプル)の証拠提出が必要です。
また,プロミスへクラヴィスの過払金を含めた返還請求をするためには,切替え前のクラヴィスとの取引の履歴が必要不可欠です。クラヴィスは平成24年7月に破産手続開始決定が出されており,破産管財人は当然には取引履歴を送付しないとしています。また,クラヴィスの破産手続が終了すると取引履歴が廃棄され,クラヴィスとの取引履歴を入手できなくなる恐れがあります。クラヴィスからプロミスへ切り替えた方は,クラヴィスの破産手続が終了する前に破産管財人に取引履歴の開示を請求する必要があります。
(参考:クラヴィスの破産決定通知書が届いたら)
原則的として,債権の移転と債務の移転は別問題のため,債権を譲り受けたB社はA社の債務を承継しません。 もっとも,取得する債権は法的に有効に存在する債権の範囲でしか認められません。
① 債権譲渡時に,仮に契約上の債務が50万円であっても法定利率による債務が10万円であれば10万円しか取得しません。そのため債権譲渡時に法定利率による債務が残っていた場合には,A社には過払い金は発生しておらず,B社がA社の過払い金返還債務を承継するかという問題自体が発生せず,B社が有効に取得した額から法定利息計算して算出した過払い金額(または債務額)のみをB社との間でのみ問題とすればよいことになります。この額はA社B社を通じて一連計算した額は同じになります。そのため,A社との取引内容はB社が有効に取得した債権額を確定するという点にのみ意味を持ちます。この点で,切替事案では,当時の契約上の債務をB社に別途負うことになるのと異なります。債権譲渡時に法定利率で債務が残っていた場合にはこの原則論で処理され,特に問題は生じません。
② 債権譲渡時に法定利率による債務がなかった(過払状態だった)場合,B社は債権を全く取得しないため,譲渡時の残債務を0円として計算した過払い金の返還をB社に求め,債権譲渡前のA社について発生した過払い金はA社に対して返還請求するというのが原則となります。
原則論で述べた①の場合はよいとして,②の場合(債権譲渡時にすでに過払状態であった場合),原則からすれば,顧客はB社にA社の過払い金返還債務の履行を求めることができません。しかし,A社がほとんどの取引をB社へ譲渡して無資力となった場合,顧客のB社に対する過払い金返還請求権はないに等しく,プロミス・クオークローンのように親会社であるB社が経営再編の一環として行った場合など,債権譲受したB社が何ら責任を負わないことは不公平という問題が生じます。
下記は当事務所で扱った事案で第1審はプロミスの責任を否定しましたが,控訴審は第1審を取り消してプロミスの責任を肯定しました。
第1審 | 控訴審(東京高裁) | |
判断 | 過払い金1,373,852円と利息 | 過払い金2,650,840円と利息 |
債権譲渡事案でも切替事案と同様に主な法律構成として以下の構成が挙げられます。
このほか,消費者金融の包括契約に基づく取引では債権債務は一体であるとして債権譲渡とともに過払い金返還債務も移転するという主張もありますが,債権債務の原則的規律から無理があると思われます(また,債権譲渡が免責の理由とされるおそれもあります。プロミスは,ネオラインキャピタルへ再譲渡していることを根拠に債務を負わないと主張します)。
1.の併存的債務引受については,権利者の受益の意思表示が必要になりますが,契約切替事案と異なり,債権譲渡事案では,利用者は債権譲渡通知を受領するだけで,取引移転についてB社との間で何らかの契約を取り交わしたり,利用者が何かを申し込んだという事実がないため,どの点を捉えて受益の意思表示があったと主張するかが問題となります。
2.信義則違反は,切替事案と同様にB社がA社の債務を承継しないことを前提に,承継を否定することが信義則(民法1条)に反して許されないというものです。債務を承継しないことを前提とする主張なので,1.の主張より一歩後退した主張となります。信義則違反を基礎づける切替時のB社の行為を具体的に主張立証する必要があります。
CFJ(ディック)・マルフク,CFJ・タイヘイの債権譲渡事案について最高裁判所は,「貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間 の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転する,あるいは 譲受業者が上記金銭消費貸借取引に係る過払い金返還債務を上記譲渡の対象に含まれる貸金債権と一体のものとして当然に承継すると解することはできない」とし,CFJ・マルフク(又はタイヘイ)間の譲渡契約ではCFJが債務を承継しないことが明確に否定されているとして,CFJの債務承継を否定しています。
プロミス・クオークローンの事案について,最高裁判所は平成24年6月29日,債権譲渡により,直ちにプロミスがクオークローンの契約上の地位の移転を受け,又はクオークローンの過払金返還債務を承継したということはできない,として債務承継を否定しました。
同最高裁は,切替事案と結論が異なる点については,切替事案では切替えの勧誘時にプロミスがクオークローンの債務をすべて引き受ける旨の意思表示をし,顧客側も債権債務をプロミスガ承継することを前提に勧誘に応じる旨の意思表示をしているが,本件は単に債権譲渡されたに過ぎないから,切替事案とは事案を異にすることは明かとしています。そして,当該事案の事実関係からはプロミスが債務承継を否定することは信義則に反するとは言えないとしています。
これまで。下級審では肯定するものと否定するものがありました。当事務所が代理した事案では,信義則違反を根拠にプロミスの責任を肯定した東京高等裁判所H23.2.23判決があります。
最高裁H23.9.30が切替事案について債務の承継を肯定しており,債権譲渡事案は切替事案と同じくプロミス・クオークローン間の合意に基づく債権移転計画の一環として行われたものであり,プロミスは債権譲渡の顧客にも紛争の窓口となると説明していることから,切替事案の顧客と債権譲渡事案の顧客とで取り扱いが異なるのは公平ではなく,プロミスの責任が肯定されるべきです。
裁判所が責任を否定する場合,その判断理由は原則論を述べたにすぎないものです。しかし,請求者側は原則論を知らないで請求しているのではなく,それでは不公平であるとして結論の具体的な妥当性を求めて請求しているのです。とすれば,原則論からすれば責任はない」との理由では答えになっておらう,同種の争いをなくすことはできません。仮に責任を否定するのであれば,それでも不公平ではなく,結論は妥当であるという理由を述べて初めて訴えに対して正面から回答したといえるでしょう。