住宅宿泊事業法
住宅宿泊事業法の罰則
住宅宿泊事業法(民泊新法)では様々な罰則が設けられています(第6章72~79条)。
適法な事業を遂行するため,正しく理解すること必要です。
住宅宿泊事業法で定義されている用語は「 」で括ってあります。
「住宅宿泊事業者」関係
6ヶ月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金,又はこれらを併科(73条)
50万円以下の罰金(75条)
- 「住宅宿泊管理業の委託」(11条1項)をすべき場合に委託をしなかった者
- 「住宅宿泊仲介業者」等への委託義務(12条)に違反して,「住宅宿泊仲介業者」又は旅行業者以外の者に「宿泊提供サービス契約」の代理・媒介を委託した者
30万円以下の罰金(76条)
- 届出事項の変更の届出(3条4項)をせず,又は虚偽の届出をした者(1号)
- 宿泊者名簿の備付け等の義務(8条1項)に違反した者(2号)
- 標識の掲示義務(13条)に違反した者(2号)
- 宿泊日数等の「都道府県知事」への定期報告(14条)をせず,又は虚偽の報告をした者(3号)
- 「都道府県知事」の業務改善命令(15条)に違反した者(4号)
- 「都道府県知事」の報告徴収(17条1項)において,報告せず,又は虚偽の報告をした者(5号)
- 「都道府県知事」の立入検査(17条1項)において,検査拒否・妨害・忌避し,又は,質問に対して答弁せず・虚偽の答弁をした者(5号)
両罰規定
事業者である法人の代表者・代理人,事業者である個人の代理人,事業者の使用人その他の従業員が,事業者の業務に関して,以上の違反行為(73,75,76条)をしたときは,違反行為をした従業員等を罰するほか,事業者である法人・個人についても各条で定められた罰金刑が科される(78条)
20万円以下の過料(79条)
「住宅宿泊管理事業者」関係
1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金,又はこれらを併科(72条)
- 国土交通大臣の登録(22条1項)を受けないで「住宅宿泊管理業」を営んだ者(1号)
- 不正の手段により国土交通大臣の登録(22条1項)を受けた者(2号)
- 名義貸しの禁止(33条)に違反して,他人に「住宅宿泊管理業」を営ませた者(3号)
6ヶ月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金,又はこれらを併科(74条)
- 業務の全部・一部の停止命令(42条1項)に違反した者
30万円以下の罰金(76条)
- 届出事項の変更の届出(26条1項)をせず,又は虚偽の届出をした者(1号)
- 従業員である証明書を従業員に携帯させる義務(37条1項)に違反した者(2号)
- 従業員である証明書の提示義務(37条2項)に違反した者(2号)
- 標識の掲示義務(39条)に違反した者(2号)
- 国土交通大臣,又は「都道府県知事」の業務改善命令(41条1・2項)に違反した者(4号)
- 国土交通大臣,又は「都道府県知事」の報告徴収(45条1・2項)において,報告せず,又は虚偽の報告をした者(5号)
- 国土交通大臣,又は「都道府県知事」の立入検査(45条1・2項)において,検査拒否・妨害・忌避し,又は,質問に対して答弁せず・虚偽の答弁をした者(5号)
- 誇大広告等の禁止(31条)に違反して,著しく事実に相違する表示をし,又は実際のものよりも著しく優良であり,若しくは有利であると人を誤認させるような表示をした者(6号)
- 不当な勧誘等の禁止(32条)に違反して,故意に事実を告げず,又は不実のことを告げた者(7号)
- 帳簿の備付け等の義務(38条)に違反して,帳簿を備え付けず,帳簿に記載せず,若しくは帳簿に虚偽の記載をし,又は帳簿を保存しなかった者(8号)
両罰規定
事業者である法人の代表者・代理人,事業者である個人の代理人,事業者の使用人その他の従業員が,事業者の業務に関して,以上の違反行為(72,74,76条)をしたときは,違反行為をした従業員等を罰するほか,事業者である法人・個人についても各条で定められた罰金刑が科される(78条)
20万円以下の過料(79条)
- 廃業等の届出事項(28条1項)の届出をせず,又は虚偽の届出をした者(79条)
新法で初めて法規制が。そして重い責任。
これまで,民泊新法で定める「住宅宿泊管理業」に該当する業務を行うこと自体を取り締まる法律はありませんでした。しかし,民泊新法では「住宅宿泊管理業」は,国土交通省の登録を受けた「住宅宿泊管理業者」のみが営むことができるとされました。
違法な民泊を営む者は事実上取り締まりが難しく野放しにされており,法令を無視していた事業者らが,すべて,民泊新法が施行されたとたんに住宅宿泊事業法に適合する事業に移行することは期待できません。違法民泊を続行する者はいなくならないでしょうし,住宅宿泊事業の届出をした上で宿泊180日を超える事業を行う可能性もあります。
民泊事業者に多くを期待できないことからすると,新法施行下では,違法な民泊事業者を排除するために,「住宅宿泊管理業者」と次の「住宅宿泊仲介業者」への取締りを強化し,違法な民泊を営むことができない状況を作る方向に進むと予想されます。
民泊事業者よりも住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者の方が少なくなるので,取り締まり対象が少なくなる分,取り締まりは楽になります。現に,仲介サイト世界最大手のAirbnbは,新規登録時に登録情報を都道府県に提供するとしています。
事業の環境を厳しくしていくことで,違法民泊を排除しようとすれば,当然,住宅宿泊管理業,住宅宿泊仲介業への取り締まりは強くなります。
民泊新法上,罰則は,住宅宿泊事業者よりも多岐にわたっており,また最高刑も,住宅宿泊事業者が6ヶ月の懲役であるのに対して,住宅宿泊管理業者については1年の懲役と重くなっています。届出をせず旅館業を営んだ場合,6ヶ月以下の懲役又は3万円以下の罰金なのに対して(旅館業法10条1号),登録をしないで住宅宿泊管理事業を営むと1年以下の懲役又は100万円以下の罰金であり(72条),かなり重くなっています。
新法下では,「住宅宿泊管理業」を遂行するために必要と認められる基準に適合する財産的基礎を有しない者(26条1項10号),適確に遂行するための必要な体制が整備されていない者(同条項11号)に該当すると登録は認められません。そして,無登録営業や不正な手段による登録には重い刑罰が設けられています。登録後は,国土交通省や都道府県知事による報告徴収・立入検査をうける立場になります。これまで特に規制されてなかった,広告・勧誘についても規制が及びます。
新法の施行に向けた十分な準備が必要なのは,民泊を営む者(住宅宿泊事業者)よりも,住宅宿泊管理業者の方かも知れません。
「住宅宿泊仲介業者」関係
1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金,又はこれらを併科(72条)
6ヶ月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金,又はこれらを併科(74条)
- 業務の全部・一部の停止命令(42条1項)に違反した者
30万円以下の罰金(76条)
- 届出事項の変更(50条1項),住宅宿泊仲介業約款(55条1項)の届出をせず,又は虚偽の届出をした者(1号)
- 標識の掲示義務(60条1項)に違反した者(2号)
- 観光庁長官の住宅宿泊仲介業約款変更命令(55条2項)に違反した者(4号)
- 観光庁長官の業務改善命令(61条1項)に違反した者(4号)
- 観光庁長官の報告徴収(66条1項)において,報告せず,又は虚偽の報告をした者(5号)
- 観光庁長官の立入検査(66条1項)において,検査拒否・妨害・忌避し,又は,質問に対して答弁せず・虚偽の答弁をした者(5号)
- 住宅宿泊仲介業約款の公示義務(55条4項)に違反して,住宅宿泊仲介業約款を公示しなかった者(9号)
- 住宅宿泊仲介業務に関する料金の公示義務(56条1項)に違反して,料金を公示しなかった者(10号)
- 公示料金を超える料金の徴収禁止(56条2項)に違反して,公示した料金を超えて料金を収受した者(11号)
両罰規定
事業者である法人の代表者・代理人,事業者である個人の代理人,事業者の使用人その他の従業員が,事業者の業務に関して,以上の違反行為(72,74,76条)をしたときは,違反行為をした従業員等を罰するほか,事業者である法人・個人についても各条で定められた罰金刑が科される(78条)
20万円以下の過料(79条)
宿泊者に対するもの
拘留又は科料(77条) (※科料=千円以上1万円未満)
- 住宅宿泊事業者(又は住宅宿泊管理業者)に対して,名簿記載事項を偽って告げた者
宿泊日数180日を超えたらどうなる?
民泊新法で認められる民泊は年間宿泊日数が180日までとされています。しかし,新法では180日を超えて宿泊させたこと自体に対する罰則はありません。では,宿泊日数が180日を超えても罰せられないかというと,そうではありません。
民泊新法で認められる「住宅宿泊事業」とは「旅館業者以外の者が宿泊料を受けて住宅に人を宿泊させる事業であって、人を宿泊させる日数が一年間で180日を超えないもの」と定義されており(2条1項),年間宿泊日数が180日を超えるものは,そもそも住宅宿泊事業に該当せず,単なる旅館業になります。
そうすると,180日を超えて宿泊させた住宅宿泊事業者は,住宅において,住宅宿泊事業ではなく旅館業を営んだことになります。その事業者は,旅館業法に基づく許可か,国家戦略特別区法に基づく認定がないかぎり,旅館業の無許可営業をしたことになり,旅館業法による罰則(旅館業法10条1号)の対象になります。
この点については,国交省・厚労省の住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)で,超過した宿泊分については旅館業法3条1項に違反することとなるとされています(ガイドライン2-3(1)①)。
ガイドラインは,180日を超過した部分のみが旅館業法違反になるとしています。しかし,180日以下の宿泊要件は「住宅」としての性質を維持するための要件であることからすると,年中宿泊させることを予定している場合や超過宿泊が常態化している場合など,「住宅」該当性が失われたと認められるケースでは,180日以下の部分を含む全体が「住宅宿泊事業」に該当せず,旅館業法違反になる余地もあると考えられます。ガイドラインの説明は,計算間違いによる日数超過など,あくまで「住宅」該当性が失われていないことを前提としたものと捉えておくべきでしょう。
また,都道府県知事への定期報告で宿泊日数について虚偽の報告すると罰金(76条3号)となり,業務改善命令等の対象になり,命令に違反すれば,旅館業法上の罰則(6ヶ月以下又は3万円以下の罰金)よりも重い処罰(6ヶ月以下又は100万円以下の罰金)の対象になります(73条2号)。