朝日新聞平成25年3月24日の報道
【朝日新聞平成25年3月24日】は,「過払い返還減額 裏協定」「消費者金融と法律事務所」「債務者,知らぬ間に損」と題して,一部弁護士・司法書士事務所が大量の事件を短期間に処理して利益を多く上げるために貸金業者と「本来の返還額の9~5割カットで和解」などの包括的な裏協定(包括協定)を締結している例があることがわかったと報じた。
債務整理・過払金返還請求実務では,かねてから裏協定をしている事務所のの存在が疑われてきましたが,この度の報道は,全国展開する消費者金融の内部資料に基づくもので,かつ貸金業者の元幹部がその存在を認めているとのことですので信憑性が高いと思います。
弁護士会も動き出す事態に
東京弁護士会は,平成25年9月2日,会長名で全会員に対して,一部法律事務所が貸金業者と包括協定を結んでいる例があるとのことで,このような包括協定が弁護士職務基本規定に違反する可能性を指摘し,貸金業者から包括協定の提携津を持ちかけられても明確に拒否すること,包括協定を締結してしまっている場合には直ちに破棄するよう要請しました。
弁護士・司法書士のビジネス志向の弊害
~ 依頼者の利益よりも事務所の利益を追求 ~
上記朝日新聞の報道によれば,この裏協定は,弁護士・司法書士事務所があらかじめ貸金業者との間で過払い金を大幅に減額して(9~5割カット)短期間で返還する包括的な約束をしておくというものです。事務所にとって1件毎の報酬は少なくなっても手間をかけずに短期間で大量の事件を処理できるので全体として大きな利益を上げることができ,他方で,貸金業者にとっては過払金の9~5割をカットしてもらい過払い金返還債務債務を減らすことができます。
このように裏協定は,1件毎の正規額に対する返還率は低くても手間をかけず短期間で大量の案件を処理することで事務所全体の返還総額を多くして利益を多くしたいビジネス志向の弁護士・司法書士と,その事務所への返還総額は多くても大量の案件について1件毎の正規額に対する返還率を低くくして全体の過払金返還債務を圧縮したい貸金業者の利害が一致したことによるものと見ることができます。
しかし,依頼者にとってはこのような弁護士・司法書士の貸金業者との裏協定は背信行為以外の何ものでもありません。個々の依頼者は,弁護士・司法書士の利益のため,貸金業者の債務圧縮のため,自分の貴重な財産の9~5割の減額を強いられるのです。
かつて禁止されていた弁護士・司法書士の広告は国民の専門家へのアクセスを容易にするために解禁されましたが,単なるビジネスチャンスとしか捉えていなかった過度にビジネス志向の弁護士・司法書士が個々の依頼者の利益よりも事務所の利益を追求することは予想できたことです。貸金業者との裏協定問題は弁護士・司法書士のビジネス志向の弊害ということができます。
建前は「破綻の危険性がある!」「早くしないと回収できくなる!」
裏協定をしていている弁護士・司法書士は依頼者にはそのことは話せないので,もっともらしい理由で依頼者を大幅減額和解に誘導しなければなりません。
そこで,過度に破綻の危険性を強調する,訴訟をした場合にかかる時間を過度に長く説明するということになります。
依頼者は何も知らないので,専門家である弁護士・司法書士から「破綻の危険性が高い」「これが限界」「早期和解が安全」などと説明されれば信じて大幅減額和解に応じてしまうでしょう。上記朝日新聞の報道では,貸金業者の元幹部が裏協定の存在を認めた上で,「『交渉の結果,取り戻せるのはこれだけ』と法律事務所に言わせれば,債務者はあきらめて和解する」と打ち明けたとされています。弁護士・司法書士が自らの専門性をしたってきた依頼者を,その信頼に乗じて騙しているのと同じです。
今でも過払い金利息を含めて問題なく回収できる主要な貸金業者について,破綻の危険性を過度に強調したり,訴訟にかかる時間を過度に長く説明したりして大幅減額和解を強く勧める専門家には注意が必要ということになります。
事実上の「裏協定」~外部からは,より見えにくい
明確に裏協定を締結していなくとも,貸金業者の中には,過払金を徹底回収する事務所に対して債務整理に協力しないなど嫌がらせ的な対応で「仕返し」するところがあるため,事務所が,貸金業者の「仕返し」を恐れて,貸金業者の提案を飲んで減額和解をすれば,事実上「裏協定」を締結しているのと変わらない結果となります。
要するに,事務所と貸金業者が仲良くなって,お互い激しく戦わないように遠慮してしまうということです。事務所は戦う手間を省いて効率よく大量の事件を処理でき,また,貸金業者には債務整理に協力してもらえるメリットがあり,貸金業者は,経営の重い負担となっている過払金返還債務を少なくすることができます。暗黙の了解で,持ちつ持たれつの関係を築いてしまうということです。
この関係は,過払金債権者である依頼者の利益を犠牲にして成り立っている点で「裏取引」となんら変わりません。しかし,「裏協定」という明確な取り決めがない分,外部からは把握しにくく,排除が難しい問題ということができます。
なぜ,貸金業者の常套手段と同じ説明をする?
過払金返還請求を扱う事務所の中には「過払金が100万円発生しているので,ここから現在の残高50万円を引くと残りは50万円,この額を回収できます。」などとおかしな説明で,依頼者を大幅減減額和解へ誘導する事務所があります。
実際には,単に100万円返還請求できるだけのことですが,間違った説明で返還請求できる額が50万円であるかのように誤信させ,依頼者が気がつかない形で大幅減額させてしまう説明です。
上記の間違った説明は,貸金業者の常套手段ですが,専門家がこの説明をするのはなぜでしょう?
上記のような説明を受けたら要注意です。
(参考:過払金発生の仕組み-間違った理解をしている人が非常に多い)
なぜ,貸金業者に有利な計算方法で過払金額を算出する?
依頼者に最も有利な計算方法(有利息・利息充当方式)は,最高裁判例により確立した計算方法です。過払金返還請求を受任した専門家が依頼者に最も有利な計算方法で計算しない理由はありません。ところが,依頼者に最も不利な計算方法,言い替えると,貸金業者に最も有利な計算方法(無利息方式)で過払金額を計算し,その額を満額(回収可能な上限)として依頼者に伝える専門家がいます。一般の方は,計算方法の違いを知らないため,請求できる金額はこの額だと専門家から言われれば,そう信じてしまうでしょう。もともと金額を少なく計算しているので,その額を全額回収しても,実際には,判例上確立した計算方法により請求可能な額よりも相当少ない額で回収したに過ぎませんが,一般の方はそれに気がつきません。
なぜ,依頼者に有利な計算方法で過払金を算出せず,貸金業者に有利な計算方法で算出するのか?
依頼者の正当な利益を確保しようとすれば,およそ考えられないことです。
貸金業者に有利な計算方法を採用する何らかの理由があると考えざるを得ません。
「A社は,元本の50%」「B社は,元本の80%」?
~その割合,どこから出てきたの?~
各貸金業者毎に,あらかじめ和解で回収する割合が決まっているような説明が見られます。
しかし,主要貸金業者について,利息を含めた全額を回収できない理由はありません。
「アコムなら○○%」「プロミスなら○○%」「アイフルなら○○%」,その割合は,どこから出てきたのでしょう? 事務所が勝手に決めることができないのは明らかです。
当事務所も,主要な貸金業者から,「全体として元金の○○%で和解するよう依頼者を説得して欲しい」「訴訟前に和解するようにして欲しい」というお願いを受けますが,訴訟をして全額回収できる以上,当然,拒否しています。
なぜ,最初から貸金業者の主張を争わない方針をとる?
弁護士・司法書士事務所の中には,事務所の方針として「過払金利息は請求しない方針です(無利息方式で計算)」「推定計算はしない方針です(資料があっても推定はしない)」と宣言している事務所が見られます。
なぜ,交渉に入るのが異常に遅い?
ほとんどの貸金業者は,1ヶ月ないし1か月半以内に取引履歴を開示するので,着手から1ヶ月ないし1ヶ月半前後で過払金を確認して交渉・訴訟等の回収作業に入ることができます(ただし,推定計算が必要な事案など特殊な事案を除きます)。
ところが,他の事務所で,金額を確認するのに3ヶ月,交渉に入るのに更に3ヶ月と説明されたというご相談を受けます。着手から交渉に入るまでだけで6ヶ月もかかるということになります。取引履歴の入手とその計算だけで足りる事案で,交渉に入るのに着手から6ヶ月もかかることは,考えられません。
着手から交渉に入るまで時間がかかることは,貸金業者にとっては返還時期がそれだけ遅くなるので非常にありがたいことになります。
回収額が少なくなることを見越して,報酬が高い?
~依頼者は,自分の利益を犠牲にして,貸金業者には多額の過払金を,事務所には高額の報酬をプレゼント ~
貸金業者が提案する大幅に減額した提案での和解を強引勧められたというご相談を多く受けます。
大幅減額和解の方針であれば,その分,報酬も少なければよいのですが,最初から決まっていたかのように減額を強引に勧める事務所には,一般的費用設定を大きく越える高い報酬が設定されている例があります。
訴訟はせず,履歴で計算が完了すると大幅に減額してすぐに和解するという,事務所にとっては手間がかからず,依頼者にとっては利益が少ない処理をしているのに,一般的な費用設定ではなく,報酬が高くなる設定になっているのは,なぜでしょう。業者が応じる範囲の和解で解決する作業は,履歴取り寄せ,法定利息計算,和解書作成という事務的なごく簡単な作業のみです。一般的な費用設定より,殊更,報酬を高くできる理由がありません(むしろ安くないとおかしい)。
大幅に減額して和解する方針のため,報酬制限に従った設定をしていると報酬が少なくなってしまうため,報酬を高く設定しておく必要があるのではないかと考えることができます。
大幅減額和解の方針なのに,費用設定が非常に高いは,裏協定までは結んでいなくとも,貸金業者側の提案を受け入れて,大幅減額和解をする方針を採用していることの表れと見ることもできます。
その事務所が貸金業者の提案を受け入れる低いレベルの解決を方針としながら,報酬が高く設定されていると,依頼者は,自分の利益を犠牲にして,貸金業者には,本来回収できる多額の過払金をプレゼントし,事務所には,高い報酬をプレゼントする結果となります。
貸金業者は,過払金の多くを放棄してもらえるので得するのは当然ですが,事務所にとっては,法定利息計算をして,予め決められた割合の金額で和解書を作るだけの作業なので,事務員による定型的な事務仕事で,短期間で,数十万円という報酬を得られ,非常においしい仕事になります。
TV・ラジオ・新聞で大々的に広告している事務所を含めて,費用設定は,その事務所の貸金業者に対する姿勢,依頼者に対する誠実さを知る1つの手がかりになる得るので,十分に確認しましょう。
(参考:曖昧な費用設定に注意)
こんな対応・説明に要注意!
こんな対応・説明をされたら,そのような対応・説明の根拠を十分に確認する必要があります。
- 貸金業者に有利な計算方法を採っている
依頼者に最も有利な計算方法(利息充当方式)は最高裁判例で確立しているので,過払金回収を受任した専門家がこれを採用しない理由はありません。「過払金利息は請求しない」「過払金利息はつけない」と説明されたら,その理由を聞くことが必要です。 - 返還割合が最初から決まっているかのような説明をする
主要貸金業者について「A社は○割」「B社は○割」と業者毎に回収割合が決まっている場合,それは各業者の和解基準に応じているだけの可能性があります。 - 主要貸金業者について「○割以上は無理」「不可能」などと断定的な説明をする
主要貸金業者について法律上認められる元利金が回収できる状況に変化はありません(回収率は下がっていない)。 - 頑なに「早期減額和解」の方針を維持する
時間がかかっても,訴訟費用がかかっても,破綻のリスクがあっても訴訟で全額回収を目指してほしいと伝えても,あれこれ理由を付け,頑なに「早期減額和解」で応じさせようとする。 - 過度に破綻リスクを強調する
破綻リスクを根拠に減額早期和解を勧められたら具体的な根拠を確認することが必要です。
破綻リスクを押してでも全額回収をしたい希望を伝えても,破綻リスクを根拠に大幅減額和解を勧めてきたら注意が必要です。 - 過度に訴訟をした場合の期間を長く説明する
過払金返還請求訴訟は一般事件より訴訟期間が短い傾向にあります。訴訟引き延ばし行為を種々行ってくるアイフルでさえ,受任から回収まで1年を超えるのは全体の5%程度,提訴から判決までの訴訟期間自体が1年を超えるのは全体の1%未満です。訴訟自体に1年以上かかる例は全体の極一部なので,平均的に1年,1年半かかるという説明を受けたら,過度な説明を受けている可能性があります。 - 貸金業者の主張を争わない方針(争点の定型処理)をしている
貸金業者は,取引の一連性,過払金利息,推定計算を争ってきます。最初から「過払金利息は請求しない方針」「推定計算はしない方針」「貸金業者が主張する取引分断は争わない方針」は,依頼者が追求可能な正当な利益を最初から放棄しているのと同じです。
依頼者のための正確・誠実な情報が流通しない現状
裏協定の存在は弁護士・司法書士業界ではその存在が疑われてきた問題であり,また,当事務所は,かねてから,一部弁護士・司法書士が事件処理の効率性を優先させて貸金業者と取引先になっているおそれを指摘し,無責任に大幅減額早期和解に誘導する弁護士・司法書士を批判してきました。
また,破綻リスクや訴訟の負担を過度に強調することを批判し,依頼者を焦らせず,急がせず,徹底的な回収を方針としてきました。
依頼者にできるだけ正確で誠実な情報を提供すれば焦って安易な早期和解をする必要がないことが分かってもらえます。
しかし,依頼者にとって重要な情報はほとんど流通せず,安易な和解に誘導するような説明ばかりが流れています。これは大量の事件を短期間で処理することで利益を上げようとする事務所が非常に多いことが原因であると考えられます。
(参考:「破綻するかも。だから貸金業者の提案で和解する」?)
(参考:貸金業者は事務所の「取引先」ではない。)