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司法書士の権限外(140万円超)業務と報酬額等

司法書士が法律上扱えない元本140万円を超える過払金について,裁判書類作成代行(本人支援業務)で過払金を回収した場合,依頼者が支払うべき報酬額はいくらか?

裁判をしなかった場合,報酬は発生するか?

140万円を超える事案について支払った報酬を返してもらう方法は?

安易に本人名義の交渉・本人訴訟支援を行った司法書士が負った大きなリスク

140万円超の事案を扱うと弁護士法違反(非弁行為)となる

法律事務は,本来,弁護士しか行うことができず,他の士業は,法律で認められた範囲でのみ業務を行うことができます。

司法書士は,法律上,訴額140万円を超える民事事件の相談・和解・代理を行えません(司法書士法3条)。

これを行うと弁護士法違反(非弁行為)として刑事処罰の対象となります。

懲戒や逮捕者が出てきましたが,最大手の「司法書士法人新宿事務所(代表阿部亮司法書士)」の複数の司法書士に弁護士法(非弁行為)の疑いがあるとして,大手信販会社が監督官庁である東京法務局に懲戒請求を申し立てたことが報道されています(H28.2.12朝日新聞)。140万円をこえる過払い金案件を扱ったとしているとのことです。

(参考:司法書士法人新宿事務所の指針を逸脱した報酬問題等

140万円の基準-最高裁判決平成28年6月27日

何を基準に140万円を超えるか決定されるか。

長く争われてきましたが,最高裁判所第一小法廷判決平成28年6月27日により解決しました。

最高裁は,140万円を超えるか否かは,個々の債権毎に,委任者や,受任者である認定司法書士との関係だけでなく,和解の交渉の相手方など第三者との関係でも,客観的かつ明確な基準によって決められるべきであると判断しました。

交渉の相手方である第三者との間でも,客観的かつ明確な基準によって決められる必要があるということは,貸金業者が客観的かつ明確な基準により140万円超の事案であると主張してきた場合は,140万円以下の事案であるとはできないことを意味します。

同一の係争物の価額算出基準として,「客観的な基準」は,複数あり得ます。例えば,計算方法についての無利息方式,利息非充当方式,利息充当方式など複数の計算方法が挙げられます。

しかし,それら,どれか1つで140万円以下になれば良いというのではなく,どの計算方法で計算しても140万円以下にならなければ,「客観的,かつ,明確な基準」によるとは言えないでしょう。

すると,司法書士は,債務については,最も依頼者に不利に計算してその額が140万円を超えるか否かを判断し,過払金については,最も依頼者に有利に計算してその額が140万円を超えるか否かを判断する必要が生じます。

詳細は,「弁護士と司法書士の違い/140万円の基準-最判平成28年6月27日」をご覧下さい。

本人訴訟支援,本人名義での交渉の違法性-最判平成28年6月27日が示したもの

~140万超なら本人訴訟支援・本人名義での交渉でも違法~

上記最高裁平成28年6月27日は,司法書士が債務整理を受任し,武富士に対して約613万円の過払金返還請求訴訟をして,499万円の返還を受ける裁判外の和解を成立させ,また,CFJとの間で493万円あまりを分割して支払う内容の裁判外の和解を成立させた事案について,「上告人(※当該司法書士)は,本件各債権にかかる裁判外の和解について代理することができないにもかわらず,違法にこれを行って報酬を受領したものであるから,不法行為による損害賠償として上記報酬相当額の支払い義務を負うというべきである。」と判断しています。

ここで重要なのは,武富士及びCFJとの交渉・訴訟・裁判外の和解は,司法書士が代理人名義で行ったものではなく,あくまで,司法書士は,本人と武富士・CFJとの間を取り次ぎ,和解に立ち会ったという形を取り,武富士に対する過払金返還請求については本人訴訟支援(裁判書類作成業務)として提訴し,和解書も,本人自身が署名押印しており,司法書士が代理人として署名押印していなかった,すなわち,本人名義の交渉・訴訟・和解であったにもかかわらず,最高裁は,代理できない範囲の業務であるから違法であると判断していることです。

第1審(和歌山地裁判決平成24年3月13日)が認定した事実によれば,その経過は,次の通りです。

 

(武富士に対する過払金返還請求について)

  1. 司法書士は,平成19年10月29日,武富士に対し,本人X1の債務整理を受任した旨の通知(今後,本人X1ではなく,被告事務所に連絡するよう記載されていた。)を発送した。
  2. 司法書士が,武富士から開示された取引履歴を前提にして,X1武富士取引を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,249万7009円の過払金元本が発生することが判明した。また,昭和57年6月12日の貸金債務残高が取引履歴に記載された44万3100円ではなく0円であることを前提にして,武富士取引を利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,613万3096円の過払金元本が発生することが判明した。
  3. 司法書士は,平成20年9月4日,本人らに対し,X1武富士取引について訴訟の準備をするように言った。
  4. 司法書士は,同年11月18日,和歌山地方裁判所に対し,X1武富士取引によって発生する過払金の返還を求める不当利得返還訴訟の訴状を提出した。
  5. 武富士は,同年12月19日,司法書士に対し,答弁書を送付し,499万円を平成21年2月末ころに支払う内容で和解したい旨を連絡した。
  6. 司法書士は,平成20年12月20日,本人X1に対し,上記の武富士の連絡を伝えた。
  7. 和歌山地方裁判所は,第1回口頭弁論期日を同月22日午前10時と指定していたが,同日,これを取り消し,追って指定するとした。
  8. 司法書士は,同日,本人X1に対し,武富士から受領した答弁書を交付した。 本人X1は,同日,被告に対し,上記の内容で和解する旨を回答した。 そこで,司法書士は,同日,武富士に対し,和解する旨を伝えた。 その後,本人X1も,同日,武富士に対し,和解する旨を回答した。
  9. 司法書士は,武富士から和解金の支払期限を平成21年2月27日とする旨の連絡を受け,和解契約書を作成し,平成20年12月26日,本人X1に対し,その和解契約書を送付した。
  10. 司法書士は,同月30日,本人X1から,同人の署名押印のされた和解契約書を受領した。
  11. 司法書士は,平成21年1月6日,和歌山地方裁判所に対し,裁判外で和解が成立したので,口頭弁論期日を追って指定として欲しい旨を電話した。
  12. 司法書士は, 同年2月20日,本人X1と武富士との間で,武富士が本人X1に対し不当利得返還債務として同月27日限り499万円を支払う旨の和解契約が成立した。 司法書士は,和解契約書に「書類作成者」名義で記名押印した。 武富士は,同月27日,本人X1名義のきのくに信用金庫の普通預金口座に和解金499万円を振り込んだ。
  13. 本人ら及び司法書士は,同年3月5日,X1武富士取引に係る過払金返還額を確認した。司法書士は,同月6日,本人X1から依頼されて,X1武富士取引に係る過払金返還額のうち20万円を本人X1名義の株式会社南都銀行の普通預金口座に入金した。
  14. 司法書士は,同月18日,和歌山地方裁判所に対し,訴えの取下書を提出した。

 

(CFJの債務についての分割弁済和解について)

  1. 司法書士は,平成19年10月29日,CFJに対し,本人X2の債務整理を受任した旨の受任通知(今後,依頼者X2ではなく,司法書士事務所に連絡するよう記載されていた。)を発送した。
  2. 司法書士が,CFJから開示された取引履歴を前提にして,利息制限法所定の制限利率に引き直して計算すると,523万3783円の債務が残ることが判明した。
  3. CFJは,平成20年1月28日,司法書士に対し,本人X2から債務を分割弁済してもらう内容で和解したい旨を連絡した。
  4. これに対し,司法書士は,CFJに対し,本人X2が債務を1か月約5万円で分割弁済する内容での和解を望んでいる旨を回答した。
  5. すると,CFJは,債務元本493万4401円及びこれに対する平成20年1月28日から支払済みまで年6%の利息を,同年3月1日から毎月1日限り5万5000円ずつ(ただし,最終弁済期には2万3299円)120回に分けて分割弁済する内容で和解したい旨を連絡した。
  6. 司法書士は,同年1月28日,本人X2に対し,上記のCFJの連絡を伝えた。
  7. 司法書士は,同年2月20日,本人X2に対し,CFJの和解案に対する回答を催促する旨の手紙を送付した。
  8. 本人X2は,同月25日,司法書士に対し,CFJの和解案に応じる旨を回答した。
    司法書士は,同月28日,CFJに対し,CFJの和解案に応じる旨を伝えた。
  9. 司法書士は,同月29日,CFJからファックス送信された和解書を受領した。
    その内容は,本人X2が,債務元本493万4401円及びこれに対する同月27日から支払済みまで年6%の利息を,同年4月1日から毎月1日限り5万5000円ずつ(ただし,最終弁済期には2万4032円)120回に分けて分割弁済する,ただし,2回以上支払を怠った場合には期限の利益を喪失し,期限の利益喪失日の翌日から年7%の遅延損害金を付加して支払うというものであった。
  10. 司法書士は,同年3月1日,本人X2に対し,和解書を送付した。
  11. その後,司法書士は,本人X2から,同人の署名押印のされた和解書を受領した。
  12. 司法書士は,この和解書に,「和解立会人」名義で記名押印し,CFJに送付した。

形式的には代理業務ではなくても,代理できない範囲の業務として違法

~事実上,「本人訴訟支援業務」の適法性を否定~

この司法書士の対応は,対外的には,代理人ではなく,あくまで本人の使者として武富士・CFJとのやりとりを取り次いでいる体裁を取っています。しかし,和解書に本人が署名押印し,司法書士は「和解立会人」や「書類作成者」として記名押印した点以外は,代理業務と同じです。

そして,武富士への過払い金返還請求については,まさに,司法書士が140万円を超える過払金について行っている本人訴訟支援という名の裁判書類作成業務そのものです。

CFJについては訴訟をしていないので本人訴訟支援ですらなく,司法書士法3条の何の業務に当たるのかすら不明ですが,同様の対応をして報酬を受け取る司法書士が一部にいます。

司法書士には,代理人ではなく,あくまで本人の使者であり,方針・意思決定は本人が行っており,本人に指示されたとおりに書類を作成しているだけという体裁さえとっておけば,違法にならないという司法書士側の考えがあり,実際に,事実上,黙認されてきました。

ところが,今回の最高裁判決は,これまで代理人という体裁を取っていないことで黙認されてきた上記の経過を前提に,武富士の過払金・CFJの債務は140万円を超えているので,司法書士は「裁判外の和解について代理することができないにもかわらず,違法にこれを行って報酬を受領したものである」として,報酬相当額の損害賠償を命じたのです。和解が代理人名義であったか否か,本人名義の訴訟・和解であったかは問題にせず,司法書士の権限外の範囲であるから違法であるとしています。

今回の最高裁判決は,紛争の価額が140万円以下であるかの決定は,各債権毎に,第三者との関係でも客観的かつ明確な基準によるとしたことだけでなく,形式的に,本人名義で処理したとしても違法になることを示したと解することができます。

今回の最高裁判決は,債務整理・過払金返還請求における本人訴訟支援業務(裁判書類作成業務)の適法性を否定した判決であると評価できます。

実質的な代理業務か否かの基準-郵送・連絡の窓口になっているか

上記のように最高裁判決平成28年6月27日には,実質が代理業務であれば,本人名義の訴訟・交渉・和解であっても,違法になることを示しています。

では,司法書士が行っている本人名義での訴訟・交渉・和解が,形式だけでなく実質的にも,本人の指示された内容を書面にし,本人や貸金業者から託された伝言を,伝書鳩のように,本人と貸金業者の間で取り次いでいるだけなのか(代行業務),それとも,代理業務と同様の実質的には代理業務であるのかは,どうやって区別することができるでしょうか。

実質的な判断になるので,司法書士と本人間の事情により個別的に判断されるのが原則ですが,外部から分からない事情により決められるのであれば,相手方である貸金業者の地位は不安定なものになります。例えば,相手方は非常に有利な和解をし解決したと考えていたところ,実質的な代理業務として効力が否定されたり,司法書士と本人間でトラブルが生じた場合や本人が破産して破産管財人が選任されたときに和解の効力を争われたりするリスクを負います。

本来,本人名義で書類の作成を代行する場合,書類作成を代行した者は表に一切出てきません。いわゆるゴーストライターと同じで,対外的に「本人の代わりに私が書類を作成しました」と名乗る必要はなく,むしろ,名乗るのはおかしなことです。

ところが,債務整理・過払金返還請求で一部の司法書士が行っている本人支援業務と称する裁判書類作成業務では,貸金業者に対して,裁判書類の作成業務を私が行いますとわざわざ通知し,以降,貸金業者と本人とのやりとりの窓口になります(貸金業者が本人に直接接触すると抗議する司法書士すらいます)。

では,なぜ,本来,表に出ることが予定されていない書類代行者でありながら,わざわざ対外的にそれを通知し,以降,窓口になるのでしょう。

それは,司法書士が書類作成業務を超える業務を行うから,すなわち,本人名義で,実質的に司法書士が交渉を行うからにほかなりません。

そこで,真の代行業務と実質的な代理業務を区別する客観的な基準は,受任者である司法書士が窓口となっているかどうかであると考えることができます。訴訟をしている場合では送達受取人になっているかどうかであるとすることができます。

代理業務では,代理人が本人から裁量を与えられ,その専門性を発揮して相手方と交渉し,代理人自身の法律行為の効果を本人に帰属させることで事件を処理します。そのため,代理人が相手方と交渉するために,また,本人の法律行為と代理人の法律行為に矛盾・齟齬が生じないよう,窓口を代理人にする必要があります。そして,本人が第三者を代理人に選任するのは,本人の代わりとしてその第三者を窓口にし,すべてその第三者に処理してもらう意思があるからです。そのため,弁護士等が代理人に選任された場合,相手方に,代理人が窓口になることを伝えることになります。

これに対して,代行業務では,代行者(使者)は,指示された内容を書面にし,また,郵便配達や伝書鳩と同じで,託された伝言等の授受を行うことのみを指示されており,交渉のための裁量を与えられておらず,また,代行者(使者)自身の法律行為は,本人にその効果が帰属しません。そのため,実際に交渉をする本人が窓口となる必要があり,また,本人の行為と代理人の行為に矛盾・齟齬が生じるおそれはないので,窓口を代行者(使者)にする必要もありません。そして,本人が,第三者に伝言等の授受のみを依頼するのは,郵便屋に配達を依頼するのと同じで,自分で対応する意思があり,その第三者を本人の代わりとして窓口にし,すべてその第三者に処理してもらう意思がないからです。そのため,郵便屋が本人とのやりとりの窓口にならないのと同様に,使者が窓口になることはありません。この点は,行政書士が内容証明郵便の作成・発送を代行するときと同じです。

このとき,本人自身が直接の接触を拒否した場合,その本人の意思は,代理業務の委任であると考えられます。なぜなら,本人自身が交渉をするために,代理業務ではなく,あえて代行業務を依頼したのであれば,直接の接触を拒否することは整合しないからです。特に,司法書士が代理人として受任通知・取引履歴開示請求をしている場合,本人が司法書士に代理業務を委任する意思を有していたことは明らかです。

また,本当に本人が代理業務を必要としておらず,自らの才覚で意思決定し,直接貸金業者と交渉して事件を処理するために,司法書士を伝書鳩のように使者に選任したのであれば,直接貸金業者から直接接触が来ても特に困ることはないはずです。また,取引履歴の開示開示請求の段階から本人名義で通知しているはずです。

さらに,重要なのは,司法書士の業務(司法書士法3条)の中に,司法書士が送達受取人になるなどして郵便・連絡の窓口になる業務は含まれていないということです。

140万円を超える事案を代理できない司法書士が,窓口になり,報酬を受け取る場合,窓口になること自体はそもそも司法書士の業務ではないのですから,その報酬の対価として司法書士が行っている業務の実質は,代理業務であると考えることができます。

このように,郵便・連絡の窓口が司法書士にされている場合,その実質は代理業務であると推認できます。

また,前掲最高裁判決平成28年6月27日は,140万円であるかは,交渉の相手方である第三者との関係でも,客観的かつ明確な基準により決められるべきであるとして,司法書士の業務範囲内であることが,相手方にとって明確に把握できることを重視している点は参考になります。

単に本人名義での交渉・和解であるだけでは,果たして,実質的にも使者であるか,実質的には代理人であるか明確ではありません。特に,代理人として受任通知をし,取引履歴開示請求をしているのであればなおのことです。

司法書士が実質的にも使者であることが明確であるというには,司法書士が構想の窓口になっていないことが必要であると考えられます。

また,代理人として,受任通知・取引履歴開示請求をしている場合には,代理権消滅通知がない限り,引き続き代理人としての業務を行っていると推認することもできます。

裁判所は,司法書士を送達受取人に指定することを認めるべきではない

司法書士が本人訴訟支援業務を行うとき,本人に司法書士を送達受取人に指定させ,裁判所と貸金業者との書面等の授受の窓口になるのが通常です。

しかし,最高裁判決平成28年6月27日は,司法書士が窓口となり,本人名義で訴訟をした事案について,140万円を超えるので取り扱えないのに,これを扱い報酬を受け取ることは違法であるとしています。

そして,上記の通り,送達受取人になることは司法書士の業務に含まれておらず,裁判書類作成業務は,本人の指示により書類を作成して提出する業務ですから,書面を本人の指示で作成・提出すれば業務終了になり,司法書士が送達受取人になる必要がありません。

そのため,司法書士が窓口となっている場合,それは司法書士の権限を越えて実質的な代理行為を行っていると推認できます。

そして,司法書士は業務として事案を扱っている以上,報酬を得て行っているものであることは明らかです。

裁判所が,司法書士を送達受取人に指定することを認めることは,司法書士の違法行為を援助・助長することにほかならず,現に,援助・助長してきたというべきものです。

最高裁は,司法書士の本人訴訟支援業務について,権限外の業務であり報酬を受領することは違法であるとしたにもかかわらず,なおも,裁判所が司法書士の同様の行為を援助・助長する対応をすることは,矛盾しており,適切ではありません。

そもそも,司法書士が送達受取人となって訴訟を追行という対応は,過払金返還請求だけに顕著に見られるものであり,他の事案ではほぼ見受けられず,従前,司法書士が裁判書類作成業務として訴状等を提出しても送達受取人になることはありませんでした。

裁判書類作成業務しかできない者を送達受取人に指定することを認めることは,裁判書類作成業務と代理業務の区別を曖昧にし,無資格者による実質的な代理行為を援助・助長します。

裁判所は,今回の最高裁判決を受け,原則に立ち返り,司法書士を送達受取人に指定することを認めない運用にすべきです。

権限外行為で成立させた和解の効力~最判平成29年7月24日

~本判決は,司法書士の権限外行為の相手方を救済した判決~

~しかし,相手方の関知しない事情で契約が無効になるおそれが残る~

~司法書士の権限外行為に対する相手方の対応が重要に~

 

平成29年7月24日,最高裁は,認定司法書士が権限外行為により成立させた和解(本人名義)の有効性について,判断しました(最高裁判所第一小法廷平成28年(受)第1463号)

    (事案概要)
  1. 司法書士が債務整理を受任し(H20.12),約330万円の過払金について,CF Jと200万円で和解を成立させた(本人名義)
  2. 本人が和解無効を主張してCFJ提訴(司法書士はCFJに補助参加)
  3. 第1審(富山地裁判決H27.12.25)は請求棄却(和解有効)
    (理由)
    和解は本人がしたものなので有効
  4. 控訴審(名古屋高裁金沢支部判決H28.5.18)は請求認容(和解無効)
    H28.2.2 本人が破産して破産管財人が承継
  5. (理由)
     ①本人がCFJと直接交渉した事実は認められないので和解は司法書士が代理人と してしたもの。②権限外なので司法書士に代理権はなく,委任契約は無効であるから,同契約に基 づく和解も無効
  6. CFJ上告
    (CFJの上告理由)
     委任契約は無効でも,和解契約は直ちに無効とならない。本和解は公序良俗に反するとまではいえないから有効であり,原判決を破棄すべきである

最高裁は,認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが弁護士法72条に違反する場合であっても,当該和解契約は,その内容及び締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り,無効とはならないとして高裁判決を破棄し,原告の控訴を棄却しました(和解を有効とした第1審判決が確定)。

※弁護士法72条=非弁護士の法律事務の取扱を禁止する規定

司法書士の弁護士法違反行為の相手方を救済した判決

本事案は,控訴審の途中で本人が破産し破産管財人が選任されたため,破産管財人が訴訟を引き継いで上告人になっていますが,もともとは本人による訴訟です。その請求を棄却した本判決は,和解契約を有効とすることで,司法書士の弁護士法違反行為の相手方だった貸金業者を勝たせたものです。そのため,本判決は,司法書士の弁護士法違反行為の委任者側を救済したものではなく,司法書士の弁護士法違反行為の相手方を救済した判決になります。

委任者である本人は和解は無効であると主張していたのですから,本件で和解が無効とされることにより委任者の利益が害されることはありません。そのため,本件で害される恐れがあった「紛争が解決されたものと理解している当事者の利益」とは,相手方の利益であるということができます。

相手方の関知しない事情で契約が無効になるリスクが残る

司法書士が弁護士法に違反して契約した場合でも,直ちにその契約を無効とすると,委任者・司法書士間の事情を知らない相手方の利益を害するので,法的安定性の観点から,契約が無効となることを制限する必要性があります。

その論理として,本判決は,契約が無効になるためには「その和解内容及びその締結に至る経緯等に照らし,公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情」が必要であるとしました。

しかし,「その和解内容及びその締結に至る経緯等」は,必ずしも全てが相手方に明かな事情ではありません。実際に,本判決が上記特段の事情がない根拠として挙げた事情は,司法書士と本人との間のやりとりであり,これらは本来相手方であるCFJの関知するところではありません。本件では,たまたま司法書士と委任者の間で深刻な違法・不正がなくて助かったというに過ぎません。

しかし,現在の債務整理・過払金実務は,玉石混淆で,経営実態不明のNPO法人や実際にどの事務所が受任するのか不明な「○○相談所」「○○相談センター」なども氾濫しています。外部からは内部でどんなことが行われているのか分からないので,各種職務規程違反,虚偽の説明,非弁提携・名義貸しなどとんでもないことをやっている者もいるかも知れませんが,相手方である貸金業者にとっては全く分からないことです。司法書士が委任者との関係でどんなも酷いことをしていても,相手方がそれを知らない場合は公序良俗違反の性質を帯びないというのであれば別ですが,本判決はそういう判断はしていません(もちろん公序良俗違反該当性判断の1つの事情にはなるでしょう)。

すると相手方は,本来関知しない,そして,知る手段がない,司法書士と委任者間の事情により,契約の効力が一方的に否定されるリスクを負うことになります。仮に,本件の司法書士が完全な裁量で勝手に200万円での和解していたら,判断は違ったかも知れません。そうすると,CFJは全く関知しない本人と司法書士の間の事情で,和解契約を一方的に無効にされたことになります。

弁護士が代理していた事案であれば,相手方はこのようなリスクを負いません。なぜなら,代理人の行為の効果は本人に帰属するので,仮に弁護士が裁量で和解し,後に本人との間でトラブルが生じたとしても,代理権に基づく和解契約である以上,その効力には何ら影響がないからです。せいぜい弁護士が本人に損害賠償責任を負うだけです。相手方は,弁護士・本人間の事情を気にすることなく,単に弁護士が代理権を有しているかだけを確認できれば足り,弁護士の無権代理行為や越権行為などについては,相手方は善意・無過失であれば保護されます。しかし,司法書士の権限外行為では,そうはいきません。

そのため,司法書士の権限外行為による契約の場合,後に,何らかの理由で本人と司法書士間でトラブルになり,本人が公序良俗違反であるから無効であると訴えてくるリスクは残ります。相手方の善意悪意・過失無過失で判断されるのであれば,相手方はリスクをコントロールできますが,本人と司法書士間の事情で契約の効力が左右されるのであれば,コントロールのしようがありません。

本件ではCFJが勝ちましたが,そもそもそこのようなトラブルに巻き込まれるだけで多大なコストがかかります。最終的に最高裁まで争って勝てば問題ないと言うことではなく,提訴されること自体が多大な負担になり,ある意味では提訴された時点で法務としては負けです。

権限外行為に介入してきたらまず辞任と弁護士への切替を促す

前述のようなリスクがあることから,今後は,司法書士が権限外の事案について,交渉してきた場合,後のトラブル回避のため,辞任を促し,本人が第三者による交渉を希望するのであれば,弁護士へ委任するよう求めるのが賢明であると考えます。

これは,債務整理・過払金における貸金業者だけの問題ではありません。

司法書士が実質的に交渉してきたものであるかどうかは,前述したとおり,受任したことを対外的に示し,連絡等の窓口になっているかどうかを1つの重要な基準にすることができるでしょう。弁護士も代理業務を依頼できるだけの費用がない方から,本人名義での訴状・反論の書面の作成だけを受任する場合がありますが,このとき,紛争の相手方に「当事務所が裁判所書類作成代行業務を受任しました。以後の連絡は当事務所まで。」などとわざわざ相手に伝えません。書類を作成するだけですから,その必要がないのです。

そこで,まず,司法書士が代理できない事案について窓口・連絡先となる旨の連絡されたら,実質的には代理業務,少なくとも後に弁護士法違反として問題が生じうる行為と捉える必要があります(破産・民事再生申立書類作成のための資料請求など交渉・和解をするものではないことが明かな場合を除きます)。

権限外の行為については,司法書士が交渉・和解をする業務を扱うことができないことは最高裁判決で確立していることと,後の弁護士法違反に伴う種々のトラブルを回避する必要性を伝えて辞任を促せば,大部分の遵法意識の高い司法書士は応じるはずです。そのように対応しても,本人が,実際に自分で交渉するつもりでいたのであれば特に困ることはないでしょうし,専門家に交渉をしてもらうつもりでいたのであれば,弁護士への委任を促してあげる必要があります。

ただし,司法書士の弁護士法違反行為については,それと分かって依頼している方は皆無と言って良く,本人も被害を受ける立場にあるため,いきなり本人へ直接連絡するのではなく,弁護士へ依頼するために必要な猶予期間を与えることは重要であると思います。

具体的には,司法書士へ弁護士法違反又はその恐れがある旨伝えて辞任を促すと共に,専門家による交渉を希望する場合は,一定の期間中に弁護士へ委任するよう本人へ伝えるよう求めるのがよいと思われます。

現在,多数の弁護士か広告を出しており,大手事務所は各地に支店を設置し,各都道府県にある弁護士会が法律相談を実施しているので,弁護士を探せないということはないでしょう。収入がない又は少ない方は,日本司法支援センター(法テラス)で弁護士費用を立て替えてくれます。なにより,どこいけば弁護士がいるかは司法書士はよく知っています。司法書士も後任の弁護士探しに積極的に協力すべきで,知り合いがいなければ,弁護士会や法テラスに相談すれば対応はしてくれるはずです。

そして,司法書士が作成した処理した事務の報告書があれば,弁護士へ円滑な引き継ぎができるはずです。

また,弁護士が受任する上での面談義務についても,緊急の場合は,面談を後回しにして受任することができ,司法書士が扱えない事態になり,相手方から辞任と弁護士への切替を求められている状況では,この緊急性が認められる場合も多いと思います。

このような環境を前提にすれば,司法書士の辞任と弁護士へ委任するまでの猶予期間としては,通常は,1ヶ月あれば十分であると考えられます。

まとめ

最判平成28年6月27日は,司法書士が弁護士法72条違反による和解をし,本人が損害を被ったとして,司法書士を訴えた事案であり,委任者・受任者間の法律関係について判断したもので,司法書士が権限外の事案をどのように扱うべきかを考える材料となりました。

これに対して,本判決は,司法書士が弁護士法72条違反による和解をし,本人が和解は無効だとして相手方を訴えた事案であり,委任者と相手方の法律関係について判断したもので,司法書士が権限外の事案について介入してきたとき,相手方はどう対応すべきかを考える材料となったということができます。

補足

本事案は平成21年4月にCFJと和解している事案です。その頃のCFJは,まだまだ余裕があり,提訴すれば,多くは1回目の審理期日が開催される前に利息を含めた全額を返還する和解が成立する状況でした。元本額のみの返還なら,CFJは喜んで和解していたような時期です。

本事案でのCFJの初回提案額が191万円ですので,本事案の和解額200万円は,ほぼCFJの言い値です。本人は,尋問の中で,交渉は司法書士が行い,自分は言われたとおり署名押印しただけ,と述べています。司法書士がCFJの提示額を丸め挙げた程度の額の交渉しかしなかったのは,司法書士の権限と能力の限界が影響したと推測されます。そして,報酬44万1000円を違法に受領しているので,本人の手元には本来請求できた額の半分以下しか残らなかったことになります。本人が敢えてその司法書士への委任を希望したとされていますが,たいした交渉ができないなら,多重債務者救済のため「弁護士へ依頼して下さい」と伝えることは頭に浮かばなかったのでしょうか。本人のことを考えて非弁行為をするなら,本人のため,刑事処罰・懲戒処分・無報酬のリスクを背負って弁護士並みの回収をして欲しいものです。非弁行為をしました,たいした交渉はできずほぼ貸金業者の言い値の和解になりました,でも報酬は弁護士並みにもらいましたでは,困ります。

その後,本人は,和解無効を主張してCFJを提訴するに至りますが,200万円の和解に合理性がなかったことが分かったからでしょう。また,その控訴中に破産に至っていることからすると,司法書士に依頼した債務整理では経済的再生を果たせなかったと推測されます。司法書士に債務整理を依頼したが,140万円を超える過払金が十分に回収されず,結局,経済的な再生を果たすことができず,最終的に倒産整理に至ったという経過は,司法書士に損害賠償を命じた最判平成28年6月27日の事案と共通しています。

司法書士の権限・能力の限界が本人に不利な解決に導く原因になるおそれがあることは,「弁護士と司法書士の違い」で,事務所開設時からずっと指摘し続けてきました。司法書士自身が制限のある権限・能力を超えて債務整理を扱うことが依頼者にとって重大な不利益を及ぼすことを認識する必要があります。

司法書士の権限・能力に限界があることを前提としてまとめられた低レベルの和解内容であったことが後で分かっても,その和解契約の効力を否定することは本判決により原則としてできないので,司法書士への不満・不信が残るだけになります。司法書士は,司法書士への依頼に適する事案であるか見極めて受任するよう心がけていくべきです。

(参考:司法書士の受任に適する任意整理・過払金事案とは

(参考:司法書士の受任に適する破産・民事再生事案とは

裁判書類作成業務(本人訴訟支援)は,代理業務と同じ基準の報酬額を請求できない

上記のように,司法書士は訴額140万円を超える民事事件の和解・代理を行えません(司法書士法3条)。そのため,あくまで本人と貸金業者間の裁判について裁判書類を作成することしかできません。

このとき,司法書士が裁判書類を作成し,本人に過払金を回収させた場合でも,代理したのと同じ基準で成功報酬を受領することはできません。代理業務に対する対価は本人の代理人として交渉などの事務を行ったことに対する対価ですが,140万円超の事件について司法書士は,法律上,代理人として交渉等をすることができず,あくまで本人が行っている裁判について裁判書類を作成しただけでになるので,裁判書類作成相当額の報酬のみが発生し,代理業務と同じ基準での報酬を得られないことになります。

なお,本人が裁判をしておらず,司法書士が裁判書類作成していないのであれば,裁判書類作成業務に対する報酬も発生しません。140万円超の事案について司法書士が報酬を得るには,本人が裁判をして司法書士がその裁判書類を作成したことが前提となります。

ここで,代理業務と同じ基準の報酬とは,典型的には,作成した裁判書類の通数や文量に対する対価ではない,結果に対する成功報酬として定められ,本人が得た利益に対して何%などと定められている場合です。その司法書士の140万円以下の代理業務の基準から少しだけ安い報酬基準にしてあっても,結果に対する成功報酬である場合には,なお代理業務と同じ基準ということができます。

委任契約は,受任者がその裁量で委任事務を処理こと自体を内容とする契約であるため,結果の成否にかかわらず,委任事務を処理したこと自体に対する報酬を観念でき,また,結果の成否に応じた報酬(成功報酬)が観念できます。代理業務は委任契約の典型です。

これに対して,裁判書類作成業務は,裁判書類の作成(完成)自体を内容としているため,委任契約というよりも,請負契約としての性質を有しており,裁判書類の作成という仕事の完成がなければ,作成作業をしたこと自体に対する報酬は観念できず,また,裁判書類の作成・引渡しで業務は完了になるため,結果の成否というものがなく,成功報酬が観念できるものではありません。

例えば,ある人が店を開くため,店舗の建築を請負業者へ依頼したとします。これは請負契約です。このとき,請負業者は,店舗を完成しない限り,いくら建築作業をしたからといって,所定の請負代金を請求できませんが,注文通りの店舗を完成させさえすれば,その店舗が繁盛しようが仕舞いが所定の請負代金を請求できます。しかし,引き渡した店舗のデザインや出来映えが高く評価されて店が繁盛し莫大な利益を得たたからといって,成功報酬を請求することはできません。逆に,店舗のデザインや出来映えが不評で繁盛しなかったからといって,注文通りの店舗を完成させている以上,所定の請負代金の支払を拒否されたり,減らされたりする理由はありません。

これと同じように,裁判書類作成業務の請負契約としての性質から,例えば,訴状の作成を受任したら,訴状を作成して引き渡したことに対する所定の報酬(1通○円,あるいは1枚○円など)は観念できても,依頼者がその訴状を裁判所に提出して得られた結果に対する成功報酬は観念できないことになります。

これは,税理士が確定申告書類の作成を扱うのと同じです。そこでは,売上高等に応じた所定の確定申告作成費用が定額で決まっており,確定申告書類を作成して引き渡せば所定の費用を受け取ることができるだけで,確定申告で利益(節税効果)が生じればその額に応じた成功報酬が発生するとか,反対に,利益(節税効果)が生じなければ報酬が発生しないというものではありません。仮に,成功報酬が定められているのであれば,確定申告作成業務の範囲を超え,依頼者に節税効果を得させる作業をする委任契約になります。

このように,裁判書類作成業務において成功報酬が定められていることは,それが裁判作成書類作成業務の範囲を超えた作業をすることを予定していることを意味し,その設定の高い安いにかかわらず,代理業務と同様の基準の報酬と考えることができるのです。

契約内容に裁判書類作成だけでなく,司法書士が窓口となることや,司法書士が書類の内容を決定すること,法廷でのやりとりの指示,和解金額の調整,取り次ぎを行うことも内容になっており,それら一連の作業に対して報酬を得ているものであれば,それは明らかに裁判書類作成業務を超えており,司法書士法・弁護士法の脱法行為です。

140万超の事件について代理業務と同じ基準で報酬を受領した司法書士は懲戒処分を受けています。また,警視庁は,平成24年6月5日,司法書士が扱えない140万円超の和解交渉を行い報酬を得たとして,東京都内の司法書士を弁護士法違反(非弁活動)容疑で逮捕したと発表しています。

さらに,本人訴訟支援名目で,本人に負担・妥協を強いて,弁護士と同等またはそれ以上の報酬請求する例が多くあり,問題となっています。

(参考:暴走司法書士荒稼ぎ「過払い金返還」で不正相次ぐ(H26.1.4 西日本新聞))

報酬規制では司法書士の過払金回収報酬の上限は税別20%(訴訟の場合24%)に定められていますが,過払金回収報酬を受領するためには「代理人として」回収するという条件が付いています。これは,140万円超の過払金については代理できないので代理業務と同じ基準の報酬を受領することができないからです。

このことは,仮に依頼者が契約時にその報酬額を支払うことを了承していても変わりません。実質的な脱法か否かの問題であるため,報酬は自由化されているので依頼者が了承していればよいというものではありません(依頼者が了承さえすればいくらでもよいという発想は法律家の発想ではありません)。制限超過利息を支払うことを了承して借金しても制限超過利息を支払う義務がないのと同じです。

ここで140万円超か否かは,発生していた過払金の元本額が基準となり,和解した額ではありません。例えば和解した額が140万円でも,発生していた過払金の元本額が140万円超であれば司法書士の権限外となります。

裁判をせず解決した場合,裁判書類の作成はなく,報酬は発生しない
(取次業務・和解書作成業務は権限の範囲外)

140万円超の民事事件について,司法書士が行えるのは裁判所に提出する書類(裁判書類)の作成のみです(司法書士法3条1項4号)。そのため,裁判書類作成業務の依頼を受けたというためには,本人が自分で裁判をすることを予定して司法書士に裁判書類の作成を依頼した事実が必要であり,また,実際に司法書士が裁判書類作成業務を行ったというためには,本人が裁判を行い,司法書士が裁判所に提出する訴状などの書類を作成した事実が必要です。

140万円超の事案について,過払金返還請求書を作成して貸金業者に送付したり,交渉窓口になって,貸金業者と本人との間での返還額を調整したり,取り次いだり,本人と貸金業者の間での和解書取り交わしを仲介することは,裁判書類の作成ではないので,これらの行為について司法書士が報酬を得ることはできません。

そのため,140万円超の事案について,裁判をせず,交渉(話し合い)で解決した場合,裁判書類作成業務に当たらず,また,裁判書類を作成した事実が存在しないので,裁判書類作成業務に対する報酬が発生する余地はありません。

ここで,140万円超の事案については,司法書士が本人と貸金業者と間の取次業務(和解書作成業務)を行うことにして,取次手数料名目で報酬○万円などを請求する例が見られますが,法律上,このような取次業務はできないので取次手数料名目で報酬を請求することはできません。

結局,140万円超の事案について,裁判をしないで司法書士が間に入って本人と貸金業者の間に和解を成立させても,報酬は発生しないことになります。

これは無資格者が,業として,どんなに他人のために労力を費やして和解成立の仲介・調整を行って和解を成立させても報酬を請求できないのと同じです。

そのため,裁判をしない司法書士は140万円を超える事案であると判明した場合には,本人に業務範囲を説明して弁護士への切替えさせるのが通常です。140万円超の事案について,弁護士に切り替えさせず,引き続き司法書士が貸金業者と本人との間の和解を取り次ぐ場合,事実上サービス(無償)で行うことが前提になります。

140万円超の紛争の相談に応じることができない(3条1項7号)

裁判をしていない場合に報酬が発生する根拠がないことは先に述べたとおりですが,本人が裁判をした場合でも,司法書士に認められている裁判所へ提出する書類の作成業務(司法書士法3条1項4号)は,あくまで本人の代わりに書類を作成するものであるため,本人の言い分・主張の代書であって,代理業務のように司法書士が広くその裁量で自由に主張立証の書面を作成して提出することが予定されているものではありません。

しかし,債務整理・過払金請求における本人訴訟支援業務では,本人に主張立証内容を決める能力はまずないので,司法書士が決めることになります。受け取った相手方からの書面を逐一本人に見せていない場合は完全な裁量で作成していることになり,実質は代理業務として代理権限を規定した3条1項6号の違反又は脱法行為といえますが,敢えて,代書行為という形式に沿って説明すれば,司法書士は,自ら記載内容を決められない本人に主張立証内容を助言していることとなります(なお,本人にどのくらいで和解した方がよいかなど助言することは当然として,傍聴席で頷いたり首を振ったりした指示も助言です)。140万円を超える債務整理・過払金請求の本人訴訟支援業務についての対価は,代書行為だけでなく,相談業務に対する対価という性質を持つことになります。裁判所へ同行する日当がある場合,その日当は,法廷での具体的な対応方法を指示・助言したことに対する対価となるので,まさに140万円を超える事案の相談業務に対する対価という性質を持ちます。

ところが,司法書士は140万円を超える民事事件について有償で相談に応じることができません(司法書士法3条1項7号)。相談に応じるとはまさに本人に助言することです。

すると140万円超の債務整理・過払金請求について本人訴訟支援として,本人の言い分の代書に止まらず,本人に助言をしながら解決を図り報酬を得るということは,その実質は,140万円超の民事事件について有償の相談に応じたものとして,司法書士法3条1項7号に違反するおそれがあります。

富山地裁平成25年9月10日判決は,司法書士がその裁量により本人名義で作成した訴状等によって提起された過払金返還請求訴訟について,弁護士法・民事訴訟法に違反し,不適法であるとして却下しています。

よって,単に代理権の範囲の点からだけでなく,相談業務の範囲の点からも,司法書士の権限外業務について代理業務と同じ基準(成功報酬)で報酬を得ることはできないということができます。

権限外業務と司法書士の損害賠償責任(大阪高裁判決平成26年5月29日:控訴審)

※第1審和歌山地裁判決平成24年3月13日

※最高裁第一小法廷判決平成28年6月27日により確定

支払った報酬相当額の損害賠償責任

大阪高等裁判所判決平成26年5月29日は,司法書士が権限を越えて債務整理・過払金返還請求を行い報酬を受領した事案について,その業務は司法書士に許容される業務の範囲を逸脱し,弁護士法72条に違反するため報酬を受領することはできないので,その司法書士が受領した報酬134万円全額が損害になるとして,司法書士にその賠償を命じています。

この判例によれば,司法書士が権限外業務を行っても報酬を請求できないため,依頼者が報酬を支払わされた場合,依頼者は,支払う義務のない金銭を支払わされたことになります。そのため,依頼者は支払った報酬額相当額の損害を被ったことになり,その賠償を司法書士に請求することが可能になります。

例えば,300万円の過払金について,本人訴訟の形式を取りながら,実際には司法書士が代理業務と同様の活動をして回収し,成功報酬として,回収額300万円の2割りの60万円を受領した場合,本人は支払う義務のない60万円を支払わされたことになるので,損害賠償として60万円の支払いを司法書士に請求できるということです。

また,この理は,裁判書類作成業務しか行っていないのに,代理業務と同じ報酬を受領した場合にも妥当すると考えられます。

助言・説明義務違反に基づく慰謝料

大阪高等裁判所判決平成26年5月29日は,さらに,その司法書士に,弁護士と司法書士の権限について助言・説明義務違反があるとして,10万円の慰謝料の支払いを命じています。

判決では,次のように認定されています。

-----以下,判決文引用----

「(証言によれば)弁護士と司法書士の権限の違いについて説明したというものの,その内容は,訴額等が140万円を超える紛争について司法書士は代理人となることはできないから,訴訟をする場合は本人が法廷に行く必要があるが,司法書士も同行して指示できるのでさほどの困難はないとし,司法書士も弁護士もほとんど変わらず,報酬は弁護士より司法書士の方が安いということを強調するような説明であったことが認められる。また,被控訴人(※司法書士)自身も,訴額が140万円を超える紛争につき訴訟をする場合は,本人訴訟を前提に裁判書類作成関係業務として受任することになること,その場合は本人が法廷に出頭する必要があること,法廷活動についてサポートすること等を説明したと供述するに止まり,それ以上の説明をしなかったことが認められる。
 これらの証言,供述によれば,控訴人X1(※依頼者)は,報酬は司法書士の方が安いこと,訴額140万円を超える事件では,弁護士に委任する場合と違って自身が法廷に立つ必要があることは理解できたと認められるが,それ以上に,弁護士と司法書士のどちらに委任するかで,債務整理の目的を達成する上でいかなるメリット,デメリットがあるのか等,その違いを理解するための説明は受けていないことが認められる。

(中略)各取引に係る過払金の回収については,高度な専門的知識を用いた裁量的判断を行いつつ,交渉や訴訟進行を図ること等が必要であったといえる。しかし,代理権限に制限のある司法書士では,必要な場面で上記のような専門的・裁量的判断に基づく処理を自らの発言・行為として行うことができず,過払金の回収において支障が生じるおそれがあることが予測できたものと認められる。したがって,本件のように債務整理の目的を達する上で過払金の回収が重視される事案において,権限に制限のある司法書士が債務整理を受任する場合には,上記のような支障が生じるおそれがあり,それに伴うリスクがあることを十分に説明した上で,それでもなお司法書士に委任するのかを確認する必要があったというべきである。  本件において,被控訴人(※司法書士)は,上記のような説明や確認をしたとはうかがえないから,本件委任契約を受任するに当たり,信義則上求められる説明・助言義務に違反するというべきである。」

----引用ここまで----

当事務所では,司法書士とのトラブルについての相談も行っており,本人訴訟支援を勧められた方からの相談も多く受けます。

相談者に,司法書士から受けた説明内容を聞くと,ほとんどが上記判例の事案と同様に,①弁護士より安い,②弁護士と変わらない,③サポートするので難しいことはないという説明しか受けおらず,デメリットや債務整理・過払金回収に支障が生じるリスクの十分な説明がされていません。また,弁護士より安いという説明については,実際にその事務所の報酬体系を見ると,ほとんどが事実に反し,同じか,言い訳程度に僅かに値引きされているか,弁護士より高くなっており,デメリット・リスクに見合うものになっていません。上記判例の事案でも,「報酬は弁護士より司法書士の方が安いということを強調する説明があった」と認定されいますが,判決で認定されている報酬(回収額の2割など)は,弁護士より安くありません。

実例に見る,司法書士の依頼者への説明例

~本人訴訟支援は司法書士の権限外業務の手段でしかない~

一部の司法書士が,弁護士と司法書士との違いや司法書士が扱うことのデメリットを十分に説明せず,裁判書類作成業務名目で140万円超の事案を扱い,報酬を得ていることが分かる実際の事例を紹介します。

一部の司法書士が行っている本人訴訟支援名目の業務の実態が,本人訴訟支援に仮託した実質的な代理業務であることが分かります。

1.事例1:司法書士が実体のない本人訴訟を勧める例

事案は,貸金業者A社へ過払金返還請求を依頼したところ,調査の結果,140万円超の過払金が発生していました。この貸金業者Aは,当時,裁判をして判決を取れば利息を含めて全額返還してきますが,訴訟をしなければ,元本の3割~4割の和解にしか応じない業者でしたが,その司法書士の方針は裁判をせず,貸金業者の提案で和解するというものでした。

しかし,140万円等の事案なので,代理人として和解はできません。

そこで,この司法書士は,「本人訴訟手続き完了までの流れ」を依頼者に交付して,司法書士の権限と本人訴訟支援を次のように説明し,必要な書類への署名押印を求めています。

「1社あたりの過払い金が140万円を超過した場合、(弁護土と違い)司法書士が手続きできるのは、「裁判所に提出する書類」を作成すること(本人訴訟支援)とされています。当事務所では原則裁判をせす和解するのが方針ですが、上記理由から形式上裁判所を介し、本人名義で手続きをする必要がありますので、以下の流れをご確認下さい。なお、引き続き当事務所が窓口 (送達場所)となり、今後裁判所・各業者からの連絡や郵便物の窓口は、すべて当事務所としています。 そのため、直接ご本人に行くことはありません。また、裁判費用は当事務所が負担するため、追加料金等はございませんのでご安心ください。」

訴訟は,あくまで,その司法書士が過払金作業をするための形式的なもに過ぎないことが書かれています。

また,「<今後ご本人にしていただくこと>」には,本人が行うことが指示されていますが,「※当事務所を介して,和解金額・入金日を調整します」「和解金額・入金日の調整が出来た後、 ①業者の連絡先 ②会員番号 ③担当者 ④ 提案金額 を伝えますので、ご本人から直接業者に連絡して和解内容を確定して頂き、折り返し確認の電話を当事務所にして下さい。」とあり,司法書士が貸金業者と具体的な和解内容の交渉をする前提で,本人には本人名義である体裁を整えるために必要最小限の関与だけが指示されています。

また,「※当事務所はほぼ全件,裁判の第一回期日前までに各業者との和解が成立します。結果裁判所へ出頭して頂くことはございませんのでご安心下さい。」「※当事務所の場合、とりあえず出頭日を決めますが、第一回の期日前までに各業者との和解が整う場合がほとんどですので、 結果裁判所へ出頭していただくことはございません。」と説明されており,本人が実際に出頭し訴訟を遂行することはない旨説明されています。

報酬も,作成した文書の種類・分量に応じたものではなく,返還金額の15%と代理業務と同様の成功報酬制になっています。また,本人が行っている訴訟であるのに裁判費用その他の実費は司法書士が負担することになっています。

要するに,その司法書士は,裁判をしないで和解する方針をとっていたので,その貸金業者A社が裁判をしない場合に応じる3割,4割程度の額で和解をしたい。しかし,140万円を超えているので,そのまま和解すると明らかな非弁行為になるので,形式的には非弁行為にならないように裁判書類作成業務の体裁を取る必要があるから,形式的に本人名義で訴訟をするというものです。訴訟は,司法書士が非弁行為ではない体裁を整えるためだけのものなので,説明内容もそのような内容になっています。

結局,この事案はどうなったかというと,本人は,司法書士からの説明を受け,わざわざ裁判をするのに3割,4割の和解はおかしいと感じ,裁判をするならきちっと回収してほしいとのことで,当事務所に相談に来て当事務所へ依頼しました。

そして,当事務所では裁判をし,利息を含めて全額回収しました。

司法書士がその方に説明した過払金額を100%とすると,その司法書士が本人訴訟支援で和解しようとした額は30%ないし40%程度ですが,当事務所は,裁判により,過払金利息を含めて回収し120%の額を回収しています。

司法書士の行為は,弁護士への依頼すれば全額回収できる事案について,依頼者に弁護士へ依頼する機会を与えることよりも,裁判しないで減額して和解するという方針を維持し,司法書士が扱えるような体裁を整えて,依頼者の利益の犠牲の下に,報酬を得ることを優先させたとの非難に値します。

先に挙げた最高裁判決平成28年6月7日も弁護士に依頼していれば,十分な過払金の回収により他の債務を整理できた可能性があったのに,司法書士が低レベルの回収をしたため債務の整理ができなくなった事案です。

また,この事例では貸金業者の言い値での和解なので,貸金業者もこの司法書士の権限外業務に文句を言いません。むしろ,このレベルの和解は貸金業者に御礼を言われるレベルです。後述の通り,希望の和解に応じてくれさえすれば,司法書士の脱法行為を黙認する貸金業者の対応が司法書士の脱法行為を助長させることになるのです。

司法書士の権限外業務は,国民から,弁護士に依頼して正当な利益を確保する機会を奪うものにほかならず,多重債務者の救済を阻害する恐れがあります。

2 事例2:適当な説明と裁判書類作成業務なのに「裁判日当」「交通費」!?

ある方が,全国に各地に複数の事務所を開設して宣伝している某司法書士法人の東京の事務所に電話相談したところ,西日本の事務所から契約書が送られて来て,「面談は不要」と言われ,不審に思い当事務所に相談に来られました。

その方のところへその事務所から送られてきたという書類には,再計算した結果,過払金の額が140万円超の場合の説明として,①司法書士が業務を行うには裁判を行う必要があることと,②裁判所に出向いてもらう必要があり,場合により業者と直接話してもらうことがあることのみが記載されており,司法書士の業務範囲,代理業務と書類作成業務との違い,これにより生じる依頼者の負担・不利益の説明が極めて不十分でほぼ全くないに等しいものになっています(かろうじて契約書の裏面に他の事項に埋もれるように非常に小さな文字で書いてある程度です)。その記載内容は,上記①,②以外は,140万円以下の場合と同じであることが前提としているようにしか読めないもので,少なくとも一般の方にそのように理解させるものです。なにより,140万円を超えた場合,弁護士へ切り替える選択肢があることの説明がありません。

また,報酬も非常に問題です。140万円超の事案についても,140万円以下の事案と同様に,基礎報酬数万円に加えて,回収額の22%とされ,裁判書類作成を作成したことに対する手数料ではなく,代理業務と同様の基準で定められています。回収作業に対する報酬を得ていると疑われます。

しかも,おかしなことに,裁判書類作成業務なのに,「裁判日当」や「交通費」が発生するとされています。しかも,日当は1回2万円という高額です。しかし,裁判書類作成で,本人が裁判所へ出頭するのに,「裁判日当」「交通費」ってなんでしょう?

日当や交通費の請求は140万円以下の場合と同じであり,要するに,140万円を超える事案について,司法書士が裁判所へ同行して傍聴席等から指示することを予定し,それらの活動について日当をもらい,そのような活動を含む回収作業に対して成功報酬を請求しているということでしょう。

しかし,依頼者にとっては,全くメリットがありません。弁護士へ依頼すれば,本人は出頭する必要なく,難しい論点でも十分に訴訟活動をしてもらえ,かつ,今,過払金返還請求で,日当を請求する弁護士はほとんどいないでしょう。

司法書士の権限外業務のために,わざわざ裁判所へ出頭した挙げ句に,その司法書士に日当まで支払うメリットはありません。

司法書士が依頼者の本人訴訟に協力しているのではなく,司法書士が権限外業務で報酬を得るために依頼者を協力させているというべきものです。

この司法書士の説明内容と費用設定は,はじめから,本人名義の訴訟の体裁を取りつつ,代理業務と同様の作業を行うことを前提としたものにほかなりません。

司法書士の権限外業務に対する適正な報酬額とは

裁判書類作成代行に相応した金額となります。(なお,本人訴訟支援と書類作成代行は同じです)

書類作成代行は,通常,作成した文書量に応じて定額で費用設定され,成功報酬はありません。

そもそも,どんなに書類作成・郵送・助言をしても手続を行っているのは,あくまで本人であるため,成功報酬という概念自体が入り込む余地はありません。そのため,成果に応じた成功報酬がある場合,原則として代理業務と同じように扱っていると考えら,司法書士の交渉・和解・代理権限を140万円以下の民事事件に限定した司法書士法3条1項5号に違反する行為又は脱法行為の疑いがあります。

また,先に述べたとおり,成功報酬は,相談料としての性質があり,140万円以下の民事事件についてのみ有償の相談に応じることができるとした司法書士法3条1項7号に違反するおそれがあります。

では,書類作成代行に相応した金額とはいくらでしょうか。

文書作成代行は1通(枚)○円,1通○円などと定められますが,代理業務と同額以上になるのでは意味がありませんから,自ずから上限が出てきます。

司法書士は依頼者に同行して地方裁判所へ行く分,手間がかかっているというかもしれませんが,司法書士が手間をかけているのではなく,依頼者に出頭の手間をかけているのであり,報酬は本人に与えたサービスに対する対価という観点からすれば,成功報酬に準じる報酬を請求する根拠とはなりません。この理由で成功報酬を認めることは無資格者の非弁行為全般を認めるのと同じになります。また,実際には司法書士が貸金業者と交渉をしている場合,これは明らかに違法行為になります。

代理業務と同じ報酬を請求されたら(支払わされたら)

1.本人訴訟をせず交渉で解決した場合

~報酬を請求される理由が存在しない~

140万円超の事案について,本人訴訟をしていないのであれば,そもそも司法書士は裁判書類を作成していないので,裁判書類作成業務の報酬を支払う根拠がありません。最初から,裁判をしない前提での依頼であれば,裁判書類作成業務の依頼ですらありません。よって,本人訴訟をしていない場合は,裁判書類作成業務報酬として支払った報酬は返還してもらう必要があります。そして,140万円超の事案について,司法書士が本人に代わって貸金業者との交渉の窓口になり,返還額の調整,和解成立を仲介したり,本人の相談に応じることは,司法書士ができない行為(非弁行為)なので,司法書士がこれらの行為をしたことに対して,報酬を支払う理由はありません。報酬を受け取った場合,報酬相当額の損害賠償義務を負うと考えられます(最高裁判決平成28年6月27日)。

2.本人訴訟をした場合

2-1.本人訴訟の実体がない場合

~権限外業務を扱ったことになり,報酬相当額の賠償責任を負う~

裁判をしないと報酬を受け取ることができないため,一部司法書士には,訴訟をしない方針を採用しておきながら,140万円超の事案については,貸金業者との間で事前に和解金額を調整した上で,裁判書類作成業務としての報酬を得るために,本人に形式的に本人名義の訴訟を提起させるものがいます。形式的に本人名義で提訴するだけなので,提起するとすぐに貸金業者と調整済みの和解を成立させ,第1回期日前又は実質的な審理が始まる前に訴えを取り下げることが予定されています。

この場合,訴訟としての実体はなく,本来提訴すれば多くなるはずの和解金額は,訴訟をしない場合に貸金業者が応じる金額のままです。訴訟は,貸金業者との出来レースでしかありません。訴訟提起は単に司法書士が報酬を得るためだけに行われているので,すべての工程が司法書士により決められ,本人は必要最小限のことだけを司法書士の指示どおりに行うことになっています。これは,司法書士側の都合で形式的に提訴された実体のない訴訟であり,本人が訴訟により得られる利益の確保を意図して訴訟をするため裁判書類作成業務を依頼し,司法書士がこれを行ったという実質を伴わないものです。よって,本人訴訟をせず交渉を解決した場合と同視できます。訴訟が司法書士側の都合により行われ,本人訴訟としての実体がなければ,司法書士が作成した裁判書類は本人のために作成したものとは言えず,本人訴訟をせず交渉で解決したのと同じであり,裁判書類作成業務の報酬は発生しないというべきであり,報酬を受け取った場合,報酬相当額の損害賠償義務を負うことになります(最高裁判決平成28年6月27日)。

3-2.実質的な代理業務の場合

~権限外業務を扱ったことになり,報酬相当額の賠償責任を負う~

本人訴訟をした場合でも,実際には,本人名義であり,本人が出頭する点除けば,代理業務と同じように,書面の内容は司法書士の裁量にゆだねられており,司法書士が方針・意思決定に関与し,貸金業者との交渉を行っている場合は,実質的な代理業務であり,140万円を超える事案について代理をして報酬を受領した場合と同様に,受領した報酬相当額について損害賠償義務を負うことになります(最高裁判決平成28年6月27日)。

そのため,損害賠償請求により,事実上,報酬を返還してもらうことができます。

3-3.実質的にも本人訴訟の場合

~権限内の業務。ただし,書面作成業務相当の報酬のみ請求できる~

本人が裁判をし,それが実質的にも本人訴訟の場合,すなわち,司法書士が裁量で書面を作成したのではなく,本人の指示で書面を作成し,交渉・方針・意思決定には関与していない場合です。

この場合,司法書士は140万円超の過払金回収について代理業務と同じ基準で報酬を受領することはできない点を指摘して書面作成代行に相応しい費用に見直してもらいましょう。

貸金業者から年利29.2%を了承して借り入れて返済したものでも,その利息が違法なら払いすぎた分は返還を求められるのと同様に,その報酬を了承して書類作成代行(本人訴訟支援)を依頼しても,違法な報酬なら返還を求められます。

成功報酬は,裁判書類作成業務になじまない費用設定であり,回収作業自体に対する報酬として設定されるものです。裁判書類作成業務は,作業自体を依頼する委任契約というよりも,裁判書類の作成という請負契約の性質を有する業務なので,作成した裁判書類の通数・文量を確認する必要があります。

司法書士が作成した裁判書類は本人名義の文書ですので,その控えは本人のものですから,作成した裁判書類の控えの引渡を受けていない場合は,裁判書類の引渡しを求めれば,司法書士が作成した裁判書類の通数・文量等を確認することができます。

ここで,司法書士が事実上交渉したことや貸金業者や裁判所との間に入り,和解金額の調整・仲介を行ったことについては報酬は請求できないので,これらを行ったことは考慮する必要がありません。単純に作成した裁判書類を基準に考えれば足ります。

実際,司法書士に,相手方と交渉したか尋ねれば,おそらく「交渉はしていない」と回答するでしょう。交渉していないのでれあば,代理業務と同じ報酬を請求される理由はなく,交渉をしたというのであれば非弁行為ですので,司法書士の活動自体が違法となり,違法行為に対する対価を支払う理由はありません。

実際に,司法書士が本人訴訟支援の体裁を取りながら,書類の送達場所を司法書士事務所へ指定させた上で,裁判所へ同行して,依頼者に裁判所で傍聴席にいる司法書士の指示通りに受け答えするよう指示するなどして,140万円を超える過払金を回収した事案について,司法書士の業務範囲を超えた行為であるなどとして懲戒処分がされています(H26.2.21神戸地方法務局長)。

また,依頼するときに司法書士の権限制限について説明がなく,又は説明が不十分であったため,予期に反して仕事を休むなどして裁判所へ出頭する手間がかかった場合や,出頭が出来ず訴訟を断念して低額の和解を強いられた場合にはその点を報酬を減額する事情として考慮してもらえないか相談してみましょう。

話し合いがつかないときは,その司法書士が所属する司法書士会が相談に乗ってくれるはずです。

当事務所では,依頼した事務所のとトラブル解決相談も受けています。

(詳細は,依頼した事務所とのトラブル解決,セカンドオピニオン

司法書士への報酬返還(損害賠償)請求が現実化する場面

~司法書士は安易に本人訴訟支援を行うと将来にわたり大きなリスクを負う~
~すでに司法書士への返還請求を募る弁護士が出現~
~今,司法書士は過払金返還請求を受ける貸金業者に似た状況にある~

上記最高裁判決平成28年6月27日は,司法書士が140万円超の事案について,例え本人名義の交渉であっても報酬を得た場合,不法行為として,その報酬相当額の返還を求めることができると判断し,実質的に,報酬の返還請求を認めました。

では,実際に,司法書士への報酬返還(損害賠償)請求が行われるのはどのような場面でしょうか。

貸金業者への過払金返還請求と同様に,依頼者本人が,次々と,司法書士に報酬の返還を求め始めるということは考えにくく,現時点では,実際に返還請求がされる可能性が高いのは,相続人や破産管財人など本人以外に本人の財産に正当な処分権限を持つ第三者が現れた場合であると考えられます。

形式的な本人名義での交渉,本人訴訟支援業務を行っている司法書士は,依頼者本人との関係だけうまく処理できればよい(本人が了解していれば良い)という前提でそれらを行っていると考えられますが,実際には,依頼者本人との関係だけにはとどまらず,返還請求権を行使できる第三者が現れないようにする必要があり,安易に形式的な本人名義での交渉,本人訴訟支援業務を行うと,将来にわたり,いつ,報酬相当額の返還(損害賠償)請求を受けるか分からないリスクを負うことになります。

また,すでに,広告で,司法書士への報酬返還請求を募る弁護士が現れています。

(他事務所のサイト:ITJでは司法書士に対する請求をします/ITJ法律事務所))

長くグレーゾーンとされてきた金利が否定されたことにより過払金返還請求が広く行われるに至ったように,長くグレーゾーンとされてきた本人名義での交渉・本人訴訟支援の適法性が否定されてことによる司法書士への報酬返還(損害賠償)請求が広く行われる可能性もあります。

1.事案の把握と返還請求をしやすい状況が存在する

140万円超の事案について,司法書士は,形式的には,あくまで本人名義で交渉・訴訟を行っているため,過払金は,通常,貸金業者から本人口座へ返金されているはずです。司法書士への報酬はその口座から送金されることが多いと考えられるので,その場合,通帳を見れば,どの業者からいくらの返還を受けたか,140万円超の事案か把握でき,また,報酬をいくら司法書士に送金したか,司法書士に返還を求める報酬額を把握することができることになります。例えば,「入金|300万円 ○○クレジット」「出金|60万円 ○○司法書士」とあれば,300万円回収して60万円報酬を支払ったと捉えることができます。

そして,報酬返還請求権を行使できる相続人や破産管財人など本人の財産について正当な権限を有する第三者は,本人の口座の通帳の記載を確認することができます。

また,司法書士が140万円超の事案について報酬を受領した場合,司法書士は懲戒されるおそれがあります。そのため,140万円超の事案について報酬返還(損害賠償)請求をされた場合,懲戒請求される恐れがあるため,司法書士は抵抗しにくいと考えられます。

さらに,司法書士が単純な裁判書類類作成業務を超えて実質的な交渉を行ったことは,貸金業者に照会して把握することができますが,このとき,司法書士の越権行為による過払金請求に悩まされてきた貸金業者が司法書士に都合の良い回答をするとは考えられません(司法書士と報酬返還請求者のいずれの見方になるかと言えば,後者でしょう)。

このように,140万円超の事案について司法書士が報酬を受け取ったことは把握しやすく,そして,返還請求をしやすい状況(司法書士が抵抗しにくい状況)が存在します。

貸金業法に通じているべき貸金業者がグレーゾーン金利が違法であることを知らなかった言い訳しても通じないのと同様に,司法書士法に通じているべき司法書士がグレーゾーン業務が違法であることを知らなかったと言い訳しても通じません。

最高裁でグレーゾーン金利が否定され,貸金業者に容易に過払金返還請求ができるようになったのと同様に,司法書士のグレーゾーン業務が否定されたことで,司法書士に容易に報酬返還請求ができる状況になっているのです。

2.相続人による請求

依頼者本人の相続人は,相続権に基づき司法書士に報酬返還(損害賠償)請求をすることができます。

140万円超の事案について報酬を受け取ることは誰との関係でも客観的に違法となるので,依頼者本人は了解・納得していたとしても,それで適法になることはありません。

相続人による請求は,今後,相当数が行われると予想されます。

理由として,まず,前述の通り,相続人は,本人の預金通帳や預金履歴で過去の入出金を把握できるので,司法書士に対する報酬返還請求権の存在を把握しやすい立場にあります。

そして,相続人は,司法書士とは個人的な関係・信頼関係がないので,司法書士に対する報酬返還請求をためらう理由がありません。

また,相続人は,相続人自身に経済的な利益があるか否かで行動するということです。例えば,その司法書士が過払金500万円について20%の100万円の報酬を受け取っている場合,本人は400万円手元に残り満足だったとしても,相続人が重視するのは,司法書士へ支払った100万円を回収できるか(自分のものにできるか)であり,本人の手元に残った400万円ではありません。特に本人が生前に400万円をほとんど使ってしまっていた場合であればなおのことです。100万円もの金額を返してもらえると知れば,多くの相続人は返還請求を選択すると考えられます。相続人にとって,被相続人である本人の手元に当時400万円が残ったことは行動の基準にならず,あくまで,相続人として100万円回収できるかどうかが基準になるのです。

特に相続人が経済的に困窮している場合や,他の相続債務がある場合,報酬返還請求をしない理由はありません。

また,相続問題は,弁護士が関与して財産関係を調査する場合が少なくありません。弁護士が一通り調べて,弁護士が代理して返還請求することは考えられます。

3.破産管財人による請求

依頼者本人が破産し,破産管財人が選任された場合,破産管財人は本人が持つ権利を行使して財産を集め,債権者に配当する義務を負っています。これを怠ると破産管財人自身の責任問題となります。

破産申立では,破産者の預金通帳の過去数年分を提出することになっており,また,破産に至る経緯を破産者から直接聴取するため,司法書士への報酬返還請求権を把握することができます。

そして,破産管財人は,本人が債権を有していることを把握すれば,原則として,それを行使して回収する義務を負うため,回収可能である限り,司法書士への報酬返還請求をしない理由はありません。

20万円未満であれば回収はしない場合がありますが,140万円超の事案であれば多くは報酬は20万円を超えているはずです。

司法書士が債務整理等で過払金を回収したものの,結局,整理できず,破産に至る例は少なくありません。破産申立までに司法書士が140万円超の過払金を回収し報酬を受領している例は少なからずあり,最高裁判例を根拠に,破産管財人による返還請求が行われる例は増えると考えられます。

4.成年後見人による請求

依頼者本人が事理弁識能力を失った場合,申立により,成年後見人が選任されますが,弁護士が成年後見人に選任される例が多くなっています。成年後見人は本人の財産を管理・維持する義務があり,預金通帳など財産に関わる資料を調べることができるので,司法書士への報酬返還請求権の存在を把握した場合,回収が可能である限り,返還請求をすることが考えられます。

5.本人による請求

今のところ,過払金返還請求のように,直ちに,依頼者本人らが,こぞって,司法書士に対して報酬返還請求するとは考えられません。

なぜなら,現時点では,依頼者本人らが,司法書士に報酬返還請求できることを知る機会がないことと,一応過払金を回収してもらっているため,敢えて報酬返還請求に踏み切ろうとする人は限られていると考えられるからです。

しかし,これは,かつての貸金業者に対する過払金返還請求と似た状況ということができます。

過払金返還請求自体は,貸金業法が施行されてまもなくから行われ,平成18年最高裁判決が出る数年前から,かなり容易に返還請求できるようになっていましたが,ほとんどの人はそれを知りませんでした。そのため,過払金返還請求を行うのは,多重債務状態に陥り借金の返済に困って弁護士会等の法律相談を受け債務整理に着手した人に限られていました。

しかし,平成18年最高裁判決により,過払金返還請求が容易にできるようになり,多くの弁護士・司法書士が積極的に広告を出し,過払金返還請求できることを世間に知らせたため,借金の返済に困っていない方を含めて,過払金返還請求が盛んに行われるようになりました。

また,中には,貸金業者がお金を貸してくれたときは助かったので,貸金業者に感謝している方もおり,過払金返還請求をすることに抵抗がある方も少なくありません。しかし,生活状況がどのような状況になっても,請求すれば返してもらえる数十万円ものお金をそのままにしつづけられるものではなく,まとまったお金を返してもらえると知れば,結局は,多くの方は返還請求する選択にたどり着きます。

今は司法書士へ報酬返還請求できることを知らない人でも,それを知った場合,しかも140万円超の金額に対する報酬のため,仮に20%としても,最低でも28万円以上ですから,容易に見逃すことはできないでしょう。

特に,今は良くても,将来,経済的に困る状況に陥れば,背に腹はかえられなくなります。家族の病気・子供の学費で臨時の費用が必要になったとき,数十万円を返してもらえると知れば返還請求して当然です。

本人にはその気は無くても,将来,事情を知った夫や妻,家族に勧められて返還請求に踏み切る例もあると思います。

最高裁判決平成28年6月27日が出るや,司法書士への報酬返還請求を募る広告を出す弁護士が現れていることからすると,少しずつ情報が広がり,返還請求に踏み切る方が増える可能性があります。

そもそも,140万円超の事案を扱い報酬を得ている司法書士には,依頼者本人との関係を良好に保てば問題は生じないという考えがあると思います。

しかし,依頼者との良好な関係をずっと維持しつづけることは,そんなに簡単なものではありません。

多くの依頼者と接してきた実務家なら誰でも分かることですが,ちょっとしたことで,依頼者から,不満を抱かれ,信頼関係が崩れることはあります。しかも,依頼者は,実際に不適切な対応だけに不満を抱くというものではなく,適切な処理をしていても,何か行き違いなどで,強く不満を抱いたり,苦情を述べたりすることがあり,適切な処理をしてさえいればよいという簡単なものではありません。どんなに適切な処理をしても,数多く事案を処理していれば,1つや2つ,不満を抱かれるべきではないことで不満を抱かれる例は避けられません。

その不満が正当なものであるか否かにかかわらず,依頼者に不満を抱かれた場合,弁護士・司法書士の防衛手段は,「行ったことに違法・不適切な点はなにもない」という点になります。どんなに不満を抱かれても,違法・不適切な点がなければ,受領した報酬を返還する義務を負いません。当然,依頼者がどんなに所属会に苦情を言っても,懲戒処分を受けることもありません。

専門家は,自己防衛として,違法・不適切なことをしてをいけないのです。

ところが,司法書士が,140万円超の事案について,本人名義での交渉・本人訴訟支援を行い報酬を受領している場合どうでしょう。「行ったことに違法・不適切な点はなにもない」とは言えません。そして,実質的に司法書士が裁量で書類を作成し,貸金業者と交渉したことは,誰よりも依頼者本人が知っています。指示されたとおり書類を作成して,指示された伝言を取り次いだだけという言い訳は通じません。

その不満が正当であるかどうかにかかわらず,不満を抱き,司法書士への信頼を失った依頼者が報酬返還請求をためらう理由はありません。

不満を抱いたことをきっかけに,司法書士の業務についてネットで調べ,今回の最高裁判例に行き当たり,本人が報酬返還請求をすることは十分にありえます。

司法書士への報酬返還(損害賠償)請求権の消滅時効

~損害を知ってから3年~
~損害を知ったことの立証責任は司法書士側にある~

140万円超の事案について司法書士への報酬返還(損害賠償)請求は,いつまでにする必要があるか,いつ消滅時効が成立するでしょうか。

上記最高裁判決平成28年6月27日は,損害賠償責任として,司法書士に報酬相当額の支払を命じています。

損害賠償責任の消滅時効は,加害者及び損害を知ったときから3年で成立します。

業者からの借金の時効は5年,過払金返還請求権の時効は10年であることと比較して,短いように感じる方もいると思います。

しかし,加害者及び損害を知ったときから3年ということは,本人が,損害,すなわち司法書士が違法に報酬を受領したことを知らない限り時効期間は進行しないので,例えば,報酬を支払ってから10年後に,実は違法な報酬であると知った場合,そこから3年で時効が成立するので,報酬を支払った日から13年間時効は成立しないことになるので,知った時期によっては,非常に長期間時効にかからないことになります。

このことは,司法書士にとって,非常に長期間,いつ,本人が損害を知り,あるいは,いつ,相続人や破産管財人が現れて損害を知り,返還請求をしてくるか分からないことを意味します。

しかも,被害をいつ知ったかの立証責任は司法書士側にあります。返還請求を受けたとき,請求してきた本人等が3年以上前に違法な報酬であることを知っていたことの立証は容易ではありません。

このように,140万円超の事案について,司法書士が安易に本人名義の交渉・本人訴訟支援を行うと,その司法書士は,長期間にわたって大きな不安を背負いこむことになります。

返還すべき報酬額と利息

~報酬を支払った日から年5分の法定利息が発生する~

過払金には発生時から年5分の過払金利息(法定利息)が発生しますが,司法書士が依頼者へ返還すべき報酬額には利息(法定利息)は発生するでしょうか。

上記最高裁判決平成28年6月27日によれば,140万円超の事案について司法書士に支払わせることができるのは,不法行為責任に基づく,報酬相当額,すなわち報酬と同額の損害賠償金です。

損害賠償金には,不法行為日から年5分の法定利息が発生します。

消滅時効の起算点は,加害者及び損害を知った日からですが,法定利息は,知った日がいつかにかかわらず,不法行為日からです。

不法行為日は,司法書士に報酬を支払った日です。

仮に200万円の過払金について報酬40万円を支払い,10年後に初めて損害を知って請求した場合,賠償金40万円に10年間の年5分の利息20万円を加えて,合計60万円を請求できることになります。

司法書士のグレーゾーン業務の否定による報酬返還請求と貸金業者のグレーゾーン金利の否定による過払金返還請求は,法律構成は違いますが,非常に似た構造をしているということができます。

「自分で訴訟をするの?」と思ったら,迷わず弁護士へ切替えを

~代理業務を依頼したのに,途中で,本人訴訟への切り替えを希望?~

~普通は,本人では手に終えないので,専門家を代理人に選任する~

140万円超の過払金返還請求について,敢えて,司法書士に本人訴訟支援を依頼するメリットはありません。

費用も弁護士と同じか,言い訳程度に若干安い程度で,費用よりも交渉上不利になる本人の負担・不利益の方が大きいためです。

前述の大阪高裁判決の事案は,弁護士による適切な訴訟活動により過払金を十分に回収できていれば,他の債務を整理できたのに,司法書士の本人訴訟支援により十分な回収ができず,他の債務の整理に支障が生じたというものです。

司法書士の本人訴訟支援で,本人訴訟を選択する方が少なからずいますが,当初から本人がそれを希望して司法書士に依頼したというよりも,権限の制限やそれに伴う本人の負担や不利益についての適切・十分な説明がなかったため,弁護士と同じように代理人として全部処理してくれると思って依頼してしまい,やむなく,司法書士に勧められるまま本人訴訟支援をすることになったという方がほとんどだと思われます。

実際に,自分で本人訴訟をやってみた人が,手に負えなくなり専門家の代理業務へ切り替えを希望することはあっても,専門家に代理業務を依頼していた人が,本人訴訟への切替えを希望することは,ほとんどないでしょう。なぜなら,本人訴訟ができるなら最初から専門家に代理業務を依頼することはないからです。

地方裁判所で,足腰の弱い老人に同行して,本人を出頭させている司法書士を見たことがありますが,果たしてその老人は,本当に,自分自身の才覚・裁量で訴訟をするために,司法書士に裁判書類作成業務を依頼したのか疑問です。また,費用が本当に作成した分量に応じたものであるか疑問です。

代理業務の依頼を受けた司法書士が,代理業務を法律上できないことが判明した時に,弁護士への切替えを勧めず,本人訴訟への切替えを勧めることは,多くの場合,委任の趣旨・本人の利益に適った対応でないといえます。

司法書士の権限については,依頼を受ける段階で,明確に説明し誤解が生じないようにする必要がありますが,実際には説明がなかったり,十分な説明がされていない例が多く見られます。

司法書士に依頼した後に,本人訴訟支援を勧められたときに,貴方が「自分で訴訟をするの?」「全部やってくれないの?」と思ったら,それは,貴方が司法書士の法律上の制限を理解しないで,司法書士が弁護士のように代理人として全て行ってくれると誤解して依頼してしまったことを意味します。それは,その司法書士が十分な説明をした上で依頼を受けなかったことを意味し,また,貴方の期待に応えることはできないことを意味します。

本人訴訟をすることが,依頼したときの貴方の期待に反するものであれば,無理に,裁判所への出頭や不利な状況を負ってまで,本人訴訟をする必要はありません。

貸金業者も,司法書士の脱法的な本人訴訟支援に対して厳しく対応するようになっています。貴方に関係のない司法書士の業務範囲の争点に巻き込まれる必要はありません。

迷わず,弁護士へ依頼することが大切です。

その司法書士に「140万円を超えているので弁護士に依頼したい」と伝えれば,対応してくれるはずです。

(参考:司法書士から弁護士への切替え)

なお,140万円未満の事案であっても,司法書士会が定める指針に従わない高い費用設定を展開している例があります。この点は,テレビCMなどで大々的に宣伝している大手司法書士法人について,日本司法書士連合会が定める指針を超える報酬体系を批判する報道がされています。

(参考「あのテレビCMでおなじみの法人で不祥事・トラブル続出 委任状捏造の疑いも

BusinessJournal 2015/10/28)

貸金業者が助長する司法書士の権限外業務

債務整理・過払金返還請求については,相談事例から,裁判書類作成業務に仮託した非弁行為・脱法行為が横行しているのが現状と思われます。

貸金業者も,この点は良く分かっているはずで,厳しい対応を取る貸金業者も一部にはいますが,多くは黙認しています。

貸金業者にとっては,貸金業者の希望に添った和解さえしてくれればよいのです。

厳しい対応を取る貸金業者でも,厳しい対応を取るのは,貸金業者の希望に添った和解に応じてくれない司法書士や大々的な宣伝など目に余る対応をしている事務所に対してであり,多くは貸金業者の希望に添った解決をしてくれさえすれば,厳しい対応は取っていないと思われます。

司法書士が,140万円超を扱うことは,非弁行為のリスクがあり,いつ貸金業者が非弁行為と言い出すか分かりませんので,強気な作業は難しくなります。しかし,司法書士にとっても弁護士へ切替えられるより,貸金業者の希望に沿った和解をした方が報酬を得られます。

こうして,大幅減額で和解して欲しい貸金業者と,140万円を超える事案を扱って報酬を得たい司法書士の利害は一致します。

ただし,これは依頼者の利益の犠牲のもとにです。

司法書士に依頼したところ,最近も数百万円の過払金があることが判明し,司法書士から裁判をせず,貸金業者の提案する約半分の和解を勧められたという相談を受けましたが,なぜ,その貸金業者は司法書士の権限を越えることを知りながら,司法書士と和解金額についての話をするのか,弁護士への切替えをさせたくない司法書士の思惑をうまく利用して,司法書士に依頼者を大幅減額での和解を説得させているように感じます。

貸金業者にとって,その件だけを見れば,弁護士へ切り替えられて徹底的な請求をされるより,司法書士の権限外業務を黙認して,都合の良い和解をしてもらった方が得ですが,そのような貸金業者の対応が,司法書士の権限外業務を助長し,全体的に司法書士の債務整理・過払金業務を増大させ,結果的には,自分の首を絞めているということができます。

各貸金業者の対応

※確認ができた貸金業者から,随時,追加していきます。

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