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弁済代行を依頼する場合の注意点

弁済代行は依頼者の経済的負担を大きくし,現在の債務状況が分からなくなったり,途中で繰り上げ返済ができなくなったりするデメリットがあるので,当事務所では,和解後は和解書を依頼者に渡して自分で返済をお願いしています。

任意整理では,和解後は,弁済代行を依頼せず,自分で返済していった方がよいことを解説します。

弁済代行って何?

任意整理では,事務所が各業者と交渉して残債務の分割払いの和解をします。分割払中の利息は免除してもらうため和解後は返済した額だけ債務が減っていくので,利息を支払う場合と比較して完済までの返済総額が少なくなります。多くの場合,分割回数は,債務金額に応じて60回以内にされ,業者と取り交わした和解書に記載されている振込先に毎月振り込んで返済していくことになります。

事務所が依頼者に和解書を渡して,依頼者が自分で振り込んで返済していくのが原則ですが,事務所が毎月まとめて依頼者に弁済資金を振り込んでもらい,事務所が各業者へ振り込んで支払うことを「弁済代行業務」といいます。依頼者は事務所に1回だけ振り込めば良いので,複数の業者へ振り込む手間が省けるメリットがあります。

しかし,経済的に余裕がない状態で弁済代行を依頼するかは慎重に検討する必要があります。

弁済代行手数料の負担はバカにできない

事務所もタダでは弁済代行業務を行ってはくれません。

日本弁護士連合会の規程,日本司法書士連合会の指針では,1回1000円(税別)まで弁済代行手数料を受領して良いとされており,弁済代行業務を行う事務所の多くが1回1000円(税別)としています。

1回1000円(税別)と聞くとそれほどでもないように思えますが,複数の業者への振込をまとめるので毎月業者数分必要になります(1社なら弁済代行を依頼する意味が無い)。長期の分割だと,この弁済代行手数料は総額だとかなりの額になり,自分で返済していくよりも経済的な負担が大きくなるので注意が必要です。

例えば,5社,いずれも60回払いの和解をした場合,1社当たり弁済代行手数料の総額は,1000円(税別)×60回=60000円なので,5社で30万円(税別)になります。これに消費税がかかります。

自分で返済していく場合,銀行振込手数料を200円(税別)とすると,1社当たりの銀行振込手数料は,200円(税別)×60回=12000円,5社で60000円(税別)で済みます。 同じ銀行間なら振込手数料がかからないので負担はもっと軽くなります。

1000円を超える手数料が設定されている場合もある

日弁連の規程・日司連の指針では上限は1000円(税別)ですが,1回2000円や1500円(税別)など1回1000円(税別)を超える額を設定している事務所が見受けられます。

5社60回払いを例にすると,1回1500円(税別)の場合,弁済代行手数料は総額で,1500円(税別)×60回×5社=45万0000円(税別)になります。消費税10%を加えると49万5000円になり,返済しなければならない約50万円の借金をもう1つ抱えるのと同じような負担になります。

弁済代行手数料以外の手数料がある場合も

1回1000円(税別)などの弁済代行手数料の外に,顧問料,管理費,サポート費用などの名目で1社あたり数百円を毎月支払う費用設定がされている例があります。

日弁連の規程,日司連の指針では他の名目での費用の受領はできないとされていますが,法的拘束力はないとの理由で種々の名目の費用を設定されている場合場あります。

例えば,弁済代行手数料1000円(税別)の外に,毎月1社500円(税別)のサポート費用を支払う費用設定の場合,5社60回払いの場合,弁済代行手数料総額が30万円(税別),サポート費用の総額が1社500円(税別)×60ヶ月×5社=15万円(税別)になります。弁済代行手数料・サポート費用の合計で45万円(税別)になります。

仮に弁済代行手数料が規程・指針より高い1500円(税別)だった場合,弁済代行手数料総額45万円(税別)と合計で60万円(税別)にもなります。

管理費,顧問料,サポート費用は,分割払い期間中の業者対応に対する費用という形にはなっていますが,和解後の支払いは,毎月きちんと返済していれば,業者は連絡してくることはありません。期日を過ぎても支払わないでいれば業者から連絡が直接来ますが,すぐに支払えば問題はありません。支払いができない状態になったら債務整理を再度依頼するほかなく,分割払い期間中に債権者対応をしてもらう必要性が高い人は多くありません。

高い弁済代行手数料を払ってでも振込を1回にしたいかよく考える

和解したとおりきちんと支払っていきさえすれば,業者から連絡が来ることはありません(領収書の発行をお願いした場合は領収書の送付,完済した際の和解書返還の案内などはあると思います)。

任意整理をする人は経済的に余裕がない方です。弁済代行手数料は総額では馬鹿にできない額になるので,任意整理を依頼した事務所に弁済代行を依頼する場合には,弁済代行手数料が総額でいくらになるか,それだけの額を払ってでも振込を1回にしたいか,よく考えて決めることが大切です。

当然に弁済代行することになっている場合の問題点

業者と和解が成立した後,自分で返済していくか弁済代行を依頼するかは,依頼者が選べなければなりません。

ところが,任意整理の委任契約書で,弁済代行を当然に依頼することになっている例が多く見られます。

弁済代行についての定めがあること自体はよいのですが,依頼者に自分で支払っていく選択肢を与えていない,自分で支払う方法があることや弁済代行を途中でやめることができることを説明しない場合は問題です。

弁済代行手数料が高い場合や他の費用がある場合は,選択の余地なく高い弁済代行手数料等を負担させられることになります。

多くの人にとって任意整理を依頼するのは初めてのことですので,そういうものだと説明されれば,そうだと思ってしまうでしょう。

弁済代行業務は,着手金や解決報酬(基礎報酬)よりもお金になる場合があるので,法定利率以下の債務のため減額報酬や過払金回収報酬を期待できなくなっている現在の債務整理実務では,弁済代行業務を当然に依頼させて,弁済代行業務で利益を得ようとする傾向が見られます。

しかし,業者に分割払中の利息を免除してもらったのに,依頼した事務所に弁済代行費用等を支払うのでは,任意整理のメリットが少なくなります。

任意整理の委任契約書に弁済代行の定めがある場合,弁済代行を依頼しなければならないのか,依頼するか選択できるかを確認することが大切です。

和解内容,現在の債務額が把握できなくなる等の問題

当事務所ではセカンドオピニオン相談を実施していますが,毎月事務所へ振り込む金額だけを指示され,和解内容もよく分からないまま,何年も指示された金額を事務所へ振込み続けているが,現在いくら債務が残っているのか全く分からない,振り込んだお金がどのように処理されたかも分からなくて困っているという相談を多く受けます。

弁済代行を行う事務所の中には和解書のコピーを依頼者に渡すこともしないものもあり,そもそもどの業者とどのような和解をしたのか分からない場合もあります。

弁済代行は事務所に毎月1回振り込むだけでよい便利さはありますが,和解内容,現在の状況が分からなくなる場合があります。

分割払いで和解した場合でも,途中で残額をまとめて支払って銀行振込手数料を節約することもできますが,和解内容,現在の状況も業者の振込先も分からないと,自分で債務をコントロールすることができなくなる恐れがあります。弁済代行業務を行う事務所側も途中でまとめて支払ってしまうと弁済代行手数料がもらえなくなるので,残高が少なくなったからといってまとめて一括払いをしたらどうかなどと助言してくれないでしょう。

自分で支払って完済することが大切

再び多重債務状態にならないようにするためには,毎月自分で各業者へ振込む手間と徐々に残高が減っていくことを実感していくことが大切です。

そして何より1社1000円程度の弁済代行手数料でも惜しむ気持ちが必要です。

カード会社に言われるがままにリボ払いで高い利息を払い続け,支払いが困難になったら,任意整理を依頼した事務所に言われるがまま弁済代行を依頼して高い手数料を支払い続ける,これでは何も変わりません。

自分で債務内容を把握し手間をかけて返済し少しずつ債務が減っていくことを実感してながら完済に至ってこそ,真の多重債務状態からの脱却と言えるでしょう。

弁済代行の依頼をやめることはできる

当然に弁済代行を依頼する契約をしている方の多くは途中で弁済代行依頼をやめることができないと考えています。

しかし,委任契約は,いつでも理由を問わず解約でき,解約の意思表示を受けた場合,受任者はそれを拒否できません。

売買契約の解除と異なり委任契約の解約は将来に向かって契約の拘束がなくなるので,締結済みの和解や弁済代行による弁済の効果が失われることはありません。

「自分で返済していくの解約します。和解書を返してください。」と伝えれば足り(FAX又はメールを推奨),返してもらった和解書に従って毎月記載されている振込先に振り込んでいけば足ります。

ここで,自分で支払って行きたいと伝えると,業者から直接督促が行くとか,何かあっても事務所で対応しないといわれて弁済代行依頼を止めることに応じてくれないという相談もあります。自分で支払っていくと貸金業者から年中連絡を受けて何か怖い思いをするかのうように誤解して弁済代行の継続してしまう方もいます。

しかし,業者は和解書記載の通り毎月振込があれば連絡してくることはなく,遅れたら数日遅れでも支払っていれば問題は生じません。分割払い中に問題が生じるのは返済ができなくなった場合ですが,返済ができなくなったのであれば,弁済代行を依頼していようがしていまいが,再度,弁護士等に相談して再整理等をしてもらうほかありません。

分割払期間中に事務所に支払わなくてはならない弁済代行手数料や顧問料・管理費・サポート費用等を計算して負担が重いと感じたら,委任契約を解約して自分で返済していくことで負担を軽くすることはできるのです。

なお,当事務所は弁済代行業務は行っておらず依頼者に自分で返済をお願いしていますが,分割払いができている間は,期日に多少遅れた場合等の業者対応をサービスで行っています。