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東京ミネルヴァ法律事務所が破産

設立初年度から預り金に欠損が生じていた

破産管財人によると,東京ミネルヴァ法律事務所は,設立された初年度(設立:平成24年4月5日)から現預金残高が預り金額を割り込んでおり,破産するまでそれが一度も解消されたことがなかった状態で,成立後の早い段階から、依頼者からの預り金(金融業者から受領した過払金の返還金と、依頼者から振り込まれた金融業者に対する弁済資金)を、広告会社リーガルビジョングループへの支払その他の運転資金の支払に流用する自転車操業に陥っており、支払不能に至っていたと思われるとのことです。(破産管財人H3.1.20付け「破産法175条報告書」
https://iwsk-kanzai.jp/data/20210125157report.pdfより)。

川島浩弁護士(当時,現在は破産により弁護士資格喪失)は,預り金に欠損が生じていた状態で引き継いだことになりますが,初代代表者室賀晃弁護士は代表退任後に亡くなっており,2代目代表河原正和弁護士は,東京ミネルヴァ法律事務所が破産して間もなく亡くなっています。

非弁業者が狙うのは,高齢か,経験の浅い若手の弁護士ですので,東京ミネルヴァ法律事務所は典型的な例と思われます。

川島浩弁護士は,代表を引き継ぐ際に経営状況をよく確認していなかったようですが,前任2人は何のお咎めもなく弁護士のまま天寿を全うしていることからすると,自己の甘さが原因とは言え,ババを引かされた感はあります。

樫塚事務所(弁護士法人オーガスタ)からの資金回収

破産管財人によると,東京ミネルヴァ法律事務所は,破産すると考えた時点で,所属弁護士だった樫塚鉱之弁護士に未処理事件の一部を引き継がせていますが,これに伴い東京ミネルヴァ法律事務所の預金口座から樫塚鉱之弁護士の個人名義口座に5億7785万3261円を移動しており,破産管財人はこの資金移動に正当な根拠はないとして,樫塚鉱之弁護士(後継:弁護士法人オーガスタ)から同金を破産管財人口座に返還させたとことです。

その際,樫塚鉱之弁護士(後継:弁護士法人オーガスタ)は,引き継いだ依頼者全員に対して東京ミネルヴァ法律事務所が負っていた債務を全部引き受けたことについて依頼者から承諾を受けていることの表明を破産管財人から求められ,樫塚鉱之弁護士は応じたとのことです。

破産などの債務整理を専門にしていた事務所の所属弁護士が破産直前に約5億8000万円もの金銭を自己口座へ移動することに破産法上の問題を感じなかったのか疑問ですが,結局,引き継いだ依頼者からの預り金として引き継いだ約5億8000万円は管財人に返し,他方で,預り金返還債務は樫塚鉱之弁護士(後継:弁護士法人オーガスタ)が全部負うことになったのですから,依頼者に預り金を返すために別途多額の資金を捻出しなければならないことになります。

所属弁護士は経営に関与していなかったようなので,未処理事件への影響を抑えようとしたとは言え,一所属弁護士の立場でこのような重い責任を負う必要があったのか,それともそうなるとは思わなかったのか,何か算段があったのか,この点も疑問が残ります。

広告会社に利用し尽くされたなれの果て

負債額が巨額(50億円以上)であるだけでなく,委任を受けている状態で解散し,所属会(第一東京弁護士会)から破産申立てをされ,即日,破産開始決定がされたという異例の事態です。

第一東京弁護士会によると「回収した過払金等の保管状況に不明な点があり、依頼者に返還することが困難な状況に陥っている疑いがあることも判明しました。」とのことですが。報道(DIAMOND online 2020/6/26)によれば,少なくとも30億円が東京ミネルヴァ法律事務所を実質的に支配する広告会社(株式会社リーガルビジョン)により流用されたとのことです。

東京ミネルヴァ法律事務所は,リーガルビジョン社からオフィス・事務員の提供も受け,金銭は同社に流れていたとのことですので,単なる広告会社の操り人形であったことになります。

リーガルビジョングループ側への返還請求

報道(R3.7.7)によると,破産管財人は,東京ミネルヴァ法律事務所が広告会社へ支払った140億円超のうち115億円が「不当利得」に当たるとして,広告会社の実質経営者らを近く提訴するとのことです。

第1回債権者集会の収支計算書をみると令和2年12月31日時点で破産管財人の手元に約10億円があるとのことですから,115億円全部とは行かなくとも,仮にかなりの額を回収できれば,良い配当率になります。破産管財人にはとにかく頑張って頂きたいところです。

リーガルビジョングループに所属する他の法人への懲戒請求

破産管財人によると,代表だった川島浩弁護士(現在は弁護士資格喪失)は,リーガルビジョングループに所属する弁護士法人,司法書士法人等を対象に懲戒請求を行っているとのことです。これは破産管財人が懲戒請求しているのではなく,あくまで川島弁護士が個人として懲戒請求しているものですが,破産管財人は可能な範囲で協力する予定とのことです。

川島浩弁護士に懲戒請求されたリーガルビジョングループに所属する弁護士法人,司法書士法人の名称は公表されていませんが,東京ミネルヴァ法律事務所が破産した直後に,当時,未だ閲覧できたリーガルビジョングループが運営していた「法律の窓口」を見たことがありますが,確かにいくつか弁護士事務所,司法書士事務所が紹介されていました。

今後,東京ミネルヴァ法律事務所と同様にリーガルビジョングループに支配されていた事務所が明らかになるのか気になるところです。

広告会社が実質支配者だった例は過去にもある

2018年には,かつて,ネット上でよく見かけた「街角相談所-法律-」(株式会社HIROKEN)が,紹介先である「弁護士法人あゆみ共同法律事務所」へ弁護士資格のない社員を派遣しており,その社員が無資格で法律業務に従事していた疑いが強まったとして,大阪地検特捜部が同法律事務所や株式会社HIROKEN等の関係先を家宅捜索しました(2018.9.19報道より)。同法律事務所の代表弁護士らは弁護士法違反(非弁提携)で有罪判決を受け,懲戒処分を受けています。この事例ではサイトに「借金減額シミュレーター」なるものがあり、居住地や借入額などを入力すると弁護士等を紹介する形を取っていましたが,紹介するのはあゆみ共同法律事務所に決まっており,要するに,よい事務所を紹介すると言いながら,自社の支配する法律事務所を紹介し,通常よりも4倍の弁護士費代を得ていました。

東京ミネルヴァ法律事務所の破産についても,同様の構造が明らかになると予想されます。

リーガルビジョン社が開設していた紹介サイト「法律の窓口」は,東京ミネルバ法律事務所の破綻後閲覧ができなくなりましたが,まだ閲覧できたとき(2020/6/26 AM)に閲覧したところ,東京都内の法律事務所1つと神奈川県内の法律事務所1つが紹介されていました。これらの事務所も東京ミネルバ法律事務所と同様にリーガルビジョン社の実質支配下にあるのでしょうか。他にも所属弁護士会の調査・捜査機関の捜査が入る可能性があり,さらに同社がらみで懲戒(業務停止)や破産に至る事務所が発生するかもしれません。

これまで,当事務所では,NPO法人などの実態の分からない業者・紹介サイトの利用について注意喚起してきました (参考:紹介サイト,非営利団体(NPO)への相談には注意が必要

「○○相談所」「○○シミュレーター」など,負債,等を入力すると事務所が紹介される危険ですので,東京ミネルヴァ法律事務所へ依頼している方だけでなく,そのようなサイトを利用して紹介された事務所へ依頼している方は,費用が弁護士会規程・司法書士会指針の上限以下に設定されているか,処理状況(和解成立の有無,回収の有無)を確認し,回収過払金をすぐにでも返してもらった方が安全です。

未熟・粗悪な弁護士が優良として宣伝される怖さ

実質的に事務所を支配して利益を得ようとする非弁業者は,仕事が取れない弁護士を甘い言葉で誘います。経験が浅く,仕事が十分にない弁護士,特に独立したての若い弁護士は格好の餌食になります。

東京ミネルヴァ法律事務所に所属していた弁護士は代表の川島浩弁護士を含めて若い弁護士です。2018年に株式会社HIROKEN(「街角相談所-法律-」)に支配され弁護士法違反で処罰を受けた弁護士法人あゆみ共同法律事務所の弁護士も若い弁護士でした。

そして,言い方は悪いですが,弁護士会が嫌と言うほど注意している非弁業者と提携してしまう,あるいは簡単に乗せられてしまう程度の弁護士です。経験の浅さ,未熟さもあり弁護士の仕事のレベルも高いものは期待できないでしょう。

非弁業者は依頼者の利益などどうでも良く,処理しているのが弁護士ではなく非弁業者の従業員,素人ですから,法律を駆使し依頼者の利益を十分に確保する処理などできるわけがなく(そもそも,するつもりもないでしょうが),過払金の回収も効率重視で貸金業者言い値の低いレベルだったはずです。そして,非弁業者の利益分が乗っかるので報酬が高くなります。あゆみ共同法律事務所は4倍の高さでしたし,東京ミネルヴァ法律事務所の債務整理の着手金も1社7万円から15万円と非常に高くなっています(一般的には1社2万円~5万円程度)。

レベルは低い,報酬は高い,流用されて返ってこないでは,依頼者は踏んだり蹴ったりです。

ところが,非弁業者は,資金力にまかせて大々的な広告,CMを打ち,まるで経験豊富な優良な弁護士であるかのうように宣伝します。「○○相談所」「○○相談センター」「借金シミュレーター」などの紹介サイトを開設し,利用した人に優良な弁護士として紹介します。シミュレーターに何を入力しても出てくる事務所が同じなら利用者は馬鹿にされたものです。

弁護士の広告自由化は,本来,自由競争により粗悪な弁護士は淘汰され,市民が優良な弁護士にアクセスできるようにするためのものですが,完全に逆になっています。

優良な弁護士よりも粗悪な弁護士へのアクセスを容易にした,これが広告自由化の現実でしょう。

再発防止のため,どうすべきか

債務整理・過払金返還請求のみに見られる特殊な環境

非弁業者が事務所を支配して利益を上げるために対象にできる事件は限られています。大量に受任し,裁判手続を経ず事務員だけで処理でき,かつ,短期間で解決し利益を生む事件である必要があります。そうでなければ,コスト倒れになるか利益が非常に少なくなるからです。

例えば,非弁業者が離婚専門の法律事務所を支配して利益を上げようとしたとします。離婚は,全体の9割が協議離婚,1割が調停になり,さらにその1割(全体の1%)が裁判に進むなどといわれており,ほとんどの離婚は弁護士へ依頼せずに解決に至ります。調停,訴訟もすべてが弁護士に依頼するわけではないので,弁護士が受任するのは全体の極一部です。費用をかけて広告を受任を募っても受任に至る事案は極一部に限られます(需要が少ない)。そして,受任後も依頼者と何度も打合せが必要で,事案に個性があるので定型処理ができず(事件の個性・非定型),解決まで非常に時間がかかるため,受任してから解決に至り報酬が発生するまで年単位で時間がかかることは少なくありません(利益を生むまで時間がかかる)。高額の金銭が得られる事案はそれほど多くありません。そして,事務員による交渉では相手に応じてもらえず(特に相手方に弁護士が付いている場合),調停,裁判になれば弁護士が直接裁判所へ出頭する必要があるため,事務員で処理することができません。何より勝ち負けがあり,被告側なら勝ってももらえるお金があるわけではありません(金銭回収が不確実)。大量の依頼は来ない,定型処理できず手間がかかる,事務員で処理できず弁護士が直接処理しなければならないため扱える事件数に限界がある,受任しても解決し報酬を得るまで時間がかかるので,高額の広告費用をかけても,コスト倒れになるか利益は非常に薄くなります。

離婚事件以外の他の一般の事件も同様です。1件,2件,無資格者が相談や交渉をしてこっそり報酬をもらったりすることはできても,東京ミネルヴァ法律事務所のように広告会社が莫大な広告費用をかけて大量の事件を受任して莫大な利益をあげることは不可能です。

ところが,債務整理事案,特に過払金返還請求では,非弁業者がコストをかけ,短期間に莫大な利益を上げることができる次の特殊性があります。

  • 需要が非常に多い
  • 定型処理ができる
  • 短期間で利益を生む
  • 事務員による処理ができる(少ない弁護士数で大量に受任できる)
  • 過払金の回収は容易(低レベルでよければ素人でもできる)

事務員による短期間での解決は過払金返還請求については低い解決レベルに繋がりますが,上記の特殊性に貸金業者側の次の事情が加わり,さらに非弁業をやりやすくしています。

  • 大量受任,事務員処理の低い解決レベルは貸金業者に好都合

非弁業者が法律事務所を支配し,大量の事務員を投入し,莫大なコストをかけて受任を募り,少ない弁護士数で大量の事件を受任し,事務員に交渉させるが,交渉と言っても弁護士による訴訟はしないので,貸金業者の言い値に応じる,貸金業者は言い値で和解してくれるのでありがたく和解する。非弁業者は短期間で利益になる,貸金業者は過払金を大幅に減額してもらえて助かるという構造です。

依頼者から見れば,高い報酬,低い解決レベルで良いことありませんが,法的知識がないので文句は言いません。言われるがままに貸金業者に高い利息を払い続け,そうやって作った貴重な過払金は,非弁業者が支配する法律事務所に言われるがままに大幅減額して和解し,そこから高い報酬を差し引かれる。取引履歴も和解書ももらえないので実際の解決レベルも解決内容も確認しようがないという状況です。

債務整理・過払金返還請求事件には,非弁業者にとって非常においしい環境が整っているのです。

少ない弁護士で大量に受任できる弊害

東京ミネルヴァ法律事務所の破産による被害者数は6000人と言われています。破産直前に樫塚鉱之法律事務所へ引き継がれた事案は約9000件ですが,6名程度の弁護士で1万人,2万人もの人から受任できる状況は異常です。弁護士が直接処理できる数を明らかに超えています。

東京ミネルヴァ法律事務所は,東京から各地へ出張無料相談会を積極的に行って事件を受任していましたが,出張へ行っている間は事件の処理は当然できませんから,僅か数名の事務所で出張相談をしながら数千,数万の事件受任を可能にしたのは,事務員による処理でしょう。

弁護士が直接扱える数を超える受任をすれば当然に弁護士による十分な作業はできません。出頭が必要な訴訟などの裁判手続は難しくなり,事務員の処理の監督も十分にできなくなり,業者依存に陥る原因になります。

そして破綻や懲戒処分の際に被害を被る依頼者が膨大な数に上ることになります。

事務員による相談・交渉を禁止すべき

事務員による相談・交渉はかなり広く行われています。建前上は「弁護士の指示により」と枕言葉を付けて相談・交渉をしますが,実際には事務員がマニュアルに沿って処理しているだけであることがかなり多いと思われます。セカンドオピニオン相談でも,弁護士と会ったことも話したこともない,対応は常に事務員のみという話をよく聞きます。

事務員による相談・交渉は,実質的には無資格者による相談・交渉と同じであり,依頼者の利益を十分に確保できないだけでなく,非弁業者につけいる隙を与えるものです。東京ミネルヴァ法律事務所はその良い例です。弁護士会は,弁護士の指示に基づく体裁をとったものを含めて,事務員による相談・交渉を禁止すべきです。

禁止したところ,きちっと弁護士が直接相談・交渉している弁護士は全く困りません。

事務員による相談・交渉をさせている弁護士が禁止されると困るからといって何の問題もないでしょう。

業者への業務委託を一切禁止すべき

東京ミネルヴァ法律事務所が広告会社に乗っ取られたのは,法律事務所が事件処理を業者に業務委託していたからです。

現在,債務整理・過払金返還請求の実務では,相談受付業者,取引履歴計算業者,そして,実際に事件処理を行う業者がいます。「24時間電話受付。フリーダイヤル○○」なんて,電話した先が本当にその事務所か分かりません。A事務所に電話相談して,B事務所にも電話相談して,結局,同じ相談受付業者に電話してたなんてこともあるかもしれません。

債務整理・過払金返還請求事件については,弁護士会は受任した事件の処理を第三者へ委託することはできないと規定すべきです。そうすれば,弁護士は,業者に頼った無制限の受任ができません。事務所の弁護士と従業員で直接処理できる数の事件しか受任できなくなり,1件1件丁寧な処理が可能になります。

事件処理を業者に委託したら一発で懲戒!となれば,弁護士は最初から業務委託しないので,業務委託したら事件量が手に負えないほど増えて気がつけば乗っ取られたなんてことはなくなります。

貸金業者は事務員との交渉を拒否できるとすべき

貸金業者は有利に和解できさえできれば良いので,貸金業者にとっては,依頼者の利益を無視した低レベル和解をしてくれる非弁業者に支配された事務所はありがたい存在かもしれません。弁護士が出てこない,訴訟もしてこない,事務員交渉オンリーの事務所が大好きなのではないでしょうか。

しかし,その態度は,非弁業者の暗躍を助長し,結果,大量の広告出稿→大量の過払金返還請求となり自らの首を絞めています。

「司法書士の権限外(140万円超)業務と報酬額等-貸金業者が助長する司法書士の権限外業務」でも述べましたが,貸金業者が有利に和解できれば良いと目先のことだけ考えて対応しているから,東京ミネルヴァ法律事務所のような事務所がでてくるのです。

最近では,司法書士の権限外行為については,名目如何を問わず司法書士とは交渉しないと宣言する貸金業者がいることと同じように,貸金業者は,事務員との交渉は拒否すれば良く,再三弁護士との直接交渉を求めても一向に弁護士が出てこない場合は,無資格者による事件処理の疑いを理由に交渉を一切拒否して弁護士会に苦情を入れれば良いのです。訴えてきたら,再三求めても弁護士が全然出てこない,弁護士法違反ではないかと東京ミネルヴァ法律事務所を引き合いに出して裁判所に,毎回毎回,訴えてれやれば良いでしょう。

貸金業者がこのような対応ができるように貸金業法に「貸金業者は弁護士及び司法書士以外の者(弁護士又は司法書士事務所の事務員を含む)との交渉を拒否することできる」と明記すべきです。

全部弁護士・司法書士が直接交渉しなければならないとなると無制限な受任はできません。債務整理ではありませんが,対応範囲を超えた事件数を受任した弁護士が懲戒された例があります。

そもそも事務員に交渉などさせていない弁護士・司法書士にとっては全く困りません。

困るのは事務員に交渉させている弁護士・司法書士と非弁業者だけです。